2024年10月11日のハイパー縁側@中津は、馬場正尊さんをゲストにお迎えしました!
テーマは 「大阪の公園化について語ろう」
9月に発売された『パークナイズ−公園化する都市–』の発刊トークイベントに、「スタンダートブックストア」を営む中川和彦さんとご登壇の馬場さん。「まず、ここがパークナイズしてるよね!」と、西田ビルの駐車場部分をリノベーションしたハイパー縁側の会場の雰囲気に、感嘆の声をあげます。想定以上の人々が集い、大賑わいの会場。大きな拍手に包まれてスタートです!

構想に3年かけて、発売された本のタイトルは、“パークナイズ”。この新しい言葉に至るプロセスを語るには、10年前に出版した『RePUBLIC–公共空間のリノベーション–』が始まりだそう。公共空間を変える為の妄想集のようなこの本が、公共空間に関わるきっかけになった、と言います。
その後、馬場さんが注視したのが、公共空間を変えているのは誰なのか、という事。そこで、公共空間をドラスティックに変えている民間の面白い人々にインタビューした『PUBLIC DESIGN-新しい公共空間のつくりかた-』という本を出版します。この本を書きながら、公共空間はデザインだけなく、いかにマネジメントをするかという融合性が大事だ、という気づきを得たと話します。

そして、まちづくりの次の概念、“エリアリノベーション”へ繋がっていきます。「点」である、ひとつひとつのリノベーションが繋がり、「面」になる事で「まち」が変わる。ヒエラルキー型で都市が変化してきた歴史の中で、部分集積で、いつの間にか都市が変わっていく事自体がタフで本質的な都市の変化だ、と考えています。
「まちづくり」という言葉に違和感があった馬場さん。“エリアリノベーション”という新しい単語を生み、意識が公共空間からまちへ広がっていったそう。また、“エリアリノベーション”のメカニズムを海外を旅しながら分析し『CREATIVE LOCAL-エリアリノベーション海外編–』を書きました。

それと並行して行ってきたのが、公共空間と民間企業をマッチングするウェブサイト「公共R不動産」。公共空間に接する機会がどんどん増え、行政や企業のニーズを浴びるようになり、『公共R不動産のプロジェクトスタディ–公民連携のしくみとデザイン–』を出版。その後、馬場さんが書いたのが、『テンポラリーアーキテクチャー–仮設建築と社会実験–』。パリやロンドンのオリンピックは、建物が仮設的に建てられていて、オリンピック後には解体されるような、とても柔らかい作り方。
そのように、色々なものが仮設的に出来上がってもいいのではないか。予め、ガッツリできたハードウェアではなく、仮設的な都市の風景、個人でもコミットしやすい都市の風景を探して書いた本だそう。馬場さん自身は、建物などハードを作る側ですが、まちや外の風景にも、ますます意識がいくようになっていき、『パークナイズ』の発刊へと繋がります。

“次の100年、都市は公園化したがっている”
20世紀、人類はまちを鉄とガラスとコンクリートで埋め尽くし、大地をコントロールしたいという欲望に駆り立てられていた100年だった気がする、と馬場さんは言います。そして、できあがったのが現在の都市の風景で、目の前に広がるビル群は、近代都市を夢見た結果。しかし今、注目が集まっているのは、ビル側ではなく地べた側で、水・土・芝生など公園の部分。次の100年、“都市は公園化したがっている”。馬場さんは、都市からそんな欲望を感じ、それが『パークナイズ』を書き始めたきっかけだった、と語ります。
馬場さんは、近年、様々な価値観が逆転しようとしている、と感じています。賑わう「密」がハッピーで、人口減少など「疎」がネガティブであるように語られてきたけれど、果たしてそうなのか。コロナ禍を通じ、適度な「疎」の心地よさを味わった私たちは、「密」を求めなくなってきたのではないか。“密から疎へ”と価値観が変化している、と指摘します。
また、かつてはどんな家・どんな車を所有しているか、という事に人間が問われていた時代がありました。しかし、今は所有にこだわる人間よりも、“どんな人と、どんなものを共有しているか”という事が、価値の中心になっている。“所有から共有へ”と価値の変換が起こっている。それはつまり、公園的なパブリックなものが重要になっている事を意味している、と馬場さんは考えています。

『パークナイズ』の中で、マニアックであり時間をかけた部分は、「Open A」が関わっている公園プロジェクトの事業スキーム・契約形態をダイアグラム化したページ。公園との何らかの組み合わせを「つなげる/置く/重ねる/見立てる」の4つのパターンに分類し紹介。みなさんが抱えているプロジェクトのどれかが、どれかに当てはまるのではないかという視点で見て欲しい、と提案します。
都市の中に建物があり道路があり、その間に公園があるという感覚から、都市自体を巨大な公園と見立て、その中に建物や道路があるという感覚に、思考をひっくり返す。その方が、未来のいい感じの風景に近づくのではないか。“パークナイズ”という言葉は、“思考の転換”をする為の、ヒントやドライバーにもなり得る、と語ります。

中川さんが、この『パークナイズ』の本で注目したのは、最後に掲載されている2人のインタビュー。1人目は、現代版商店街「BONUS TRACK」を下北沢で開業した「散歩社」の小野さん。2人目は、データに基づいた都市計画を行うアーバン・サイエンス分野の研究に従事している、建築家の吉村さん。2人のインタビューで共通して言えるのは、“民主主義”だ、と中川さんは指摘します。
私たちは、資本主義の歪みを感じているけれど、全てを今すぐに変えようにも変えられないという事も分かっている。ただ、「高円寺アパートメント」の事例で紹介されているように、小さな組織や個人でもプレイヤーになる事ができる。今、自分たちに求められている、突きつけられている現在の問題を可視化している本だ、と分析します。馬場さんは、公園という空間は、民主主義が図像化されたもの、風景化されたものだ、と考えています。いい公園の様子を見ていると、民主主義のありがたさを感じる、と言います。

以前、吉村さんが働いていたバルセロナは、軍事政権に支配されていた反動で、民主主義を求める力が強い国家。馬場さんは、先月スペインに渡り、「民主的な空間を、自分たちで創ろう」とする様を目の当たりにし、とても熱い気持ちになったそう。スペインの都市計画では、建築家やプランナーだけでなく、生物学者・物理学者など、色々な切り口から都市をみています。
中川さんはインタビューを読み、その感覚が日本にはない事に危機感を覚えた、と言います。日本とスペインで活躍してきた2人のインタビューを最後に載せ紹介したのは、日本の未来への“滑走路”のようなものにしたかったから、と馬場さんは想いを語ります。

これからも、デザインとマネジメントの融合は、公共空間再生のポイントになる。その際、何度も言葉の持つ力を口にしてきた馬場さんは、「管理」ではなく「運営(マネジメント)」と言うべき、と話します。「管理」と言った瞬間、人間は「コントロールしないといけない」と感じてしまう。言葉が人間の行動を縛る事があるので、「管理」という言葉を公共空間から抹殺したい、と力強く提案します。
後半は、大阪のまちで活動する方々に、自由に想いを語っていただきました!
中津在住の坂本さんは、中津や大阪のまちが面白く変化していく様子を眺めていて、自然に引き寄せられた経験が多々あるそう。今回、話をきいて、面白さというのは、仕掛けられていたんだ、と感じたと話します。

中津のまちを楽しんで使ってほしい、と常々願っている花咲会長は、梅田とは違う雰囲気の出店が多いのが中津の特徴。今後も、ここに来た人たちが地域と繋がって欲しい、と語ると、中川さんが、「地域には貢献するので、いい物件紹介してください!」とお願いする場面もありました。

公共空間に対して、頭で考えていて動くよりも、「何かええな」と感じて人が集まってくる、大阪の特性をこれからも生かしていく事が大事、とロフトワークのハモさんは感想を述べます。

『パークナイズ』にも紹介されている「なんば広場」の改造計画に携わるハートビートプランの泉さんは、「なんば広場」の始まりは、地元商店街の「広場にしたい」という発信からだった、と話します。ビルを建てるのではなく、逆の発想でボイド(何もない空間)を作る事でまちを良くしようと考えました。
ハードが出来上がった後の、まさにマネジメントが課題で、これから取り組んでいくそう。馬場さんは、この土地で何年もかけ「なんば広場」を作り上げた事は、狂気の沙汰であり、大阪のシビックプライドを感じる、と称賛します。


“所有から共有へ”
西田工業の西田社長は、馬場さんの“所有から共有へ”という考えに共感し、シームレスな空間づくりが、地域をよくできると実感している、と話します。公共空間に民間が介入し、新しいパブリックを作っている事を示した馬場さんですが、西田ビルは、民間の土地を公共化する事でまちを変えている。もうひとつ先の未来を走っている、と感じています。20世紀は、自分の土地・人の土地、屋外・屋内、と強く境界線を引くのが近代の欲求だとしたら、そこを曖昧にするのが未来の欲求なのではないか、と何となく感覚的に感じている、と語ります。
梅田の再開発や中津のまちづくりを担当する阪急電鉄の永田さんは、高架下を面白くするにあたって、契約形態自体を変えるしくみを思案中。それには、ここに集っている方々や大阪市も巻き込んでいきたい、と考えています。
馬場さんは、“ルールの多様性が、風景の多様性を生む”と言います。市を巻き込んで、契約形態自体を変えるという考えはとても面白く、東京では起きないような事が起こる大阪は、後先考えずとりあえずやっちゃう風潮がある。公共空間をクレイジーに使う先進的なまちだ、と大阪のまちの印象を語ります。

この場所は、所有と共有の境界線がもはや見えない。そんな曖昧性に未来を感じているし、中津というまちのキャラクターを作っている場所。自分も関わる事ができるかもしれないと思える、身近で手触り感があるとても暖かい公園だ、と笑顔で話す馬場さん。
中津のエリア全体が、こんな感じで公園化した瞬間に、さらにむちゃくちゃ楽しいまちになる。「まだまだ暴れて下さい!」と優しい眼差しで、力強いエールを送って下さいました!

