2023年6月23日のハイパー縁側は、立命館大学の都市地域デザイン研究室に在籍する田川龍さん・白野裕之さん・宮原陽海さんをゲストにお迎えしました!
テーマは「地域デザインに取り組む大学院生達の“夢”」

ゲストの3人は現在、立命館大学の土木系学科である、環境都市工学科の金研究室に在籍しています。様々なエリアのまちに繰り出して行って、まちを歩いて課題を見つけ、研究や発表をする事が多い研究室です。

宮原さんが金研究室に入ったのは、研究室も関わっていた東本願寺前緑地でのワークショップに参加して、こんな事が研究としてあるんだと知った事がきっかけでした。現在、ベンチ(着座空間)を街中に増やす研究をしています。
卒業後は大阪で不動産業界の会社に就職します。

田川さんは、熊本の田舎の島のご出身。人口流出が全国でもワースト3に入るようなまちだそうで、地元の課題解決に貢献するために、まちづくりの研究室に入りたいと思っていたそう。いくつか研究室がある中でも、金先生の人柄に惹かれて入る事を決めました。田川さんも卒業後は不動産業界に就職する事になり、東京に行きます。

現在、地域住民の方々がまちにどのような感情を抱いているかを、アンケート調査を用いて測定し要素を抽出する社会学・心理学に近い研究をしています。

白野さんは3回生の時に就職活動をする中で、まちづくりに携わりたいと思いましたが、まちづくりの事を全く知らないと痛感しました。学生の時に培ったものを就職して活かしたいと思う中で、金研究室では自ら主体的に発信する授業が多く、この先生の元で学びたい!と思ったそうです。

現在は、ネパールの僧院を防災拠点として活用するポテンシャルの研究をしています。ネパールにも歴史的な建造物が多く、また地震も多く日本と環境が似ています。東日本大震災の時にも寺院が防災拠点として使われた背景があり、日本の知見をネパールで活かせないかと研究しています。

研究室のみなさんは当日の日中、中津のまちでフィールドワーク・調査を行ってきました。その感想も聞きつつ、3人のもつ将来像を話して頂きました。田川さんは熊本の島で生まれ、中国の上海でも9年間過ごした経験があり、日本と中国で過ごした期間が同じくらいなのだそう。コロナ禍以前は1年に2回ぐらい中国にも行っていました。

そのような経験も踏まえながら中津に来てみると、梅田からこんな近い所とは思えないぐらい昭和レトロな雰囲気もありつつ都会の喧騒もあるという、他の地域では見られない特徴があるなと感じたそう。

“居場所づくり”

田川さんは卒業研究で公園を対象にしている事もあり、まちの中で家以外でも落ち着ける居場所づくりをしたいという将来像をもっています。近年は法制度が変わってきた事もあり、民間の不動産業界も公園の運営に携われるようになってきたので、ソフト・ハード両面を通じて住民の方の居場所づくりをできるようにしたい!と話します。

宮原さんも、就職する不動産業界は都市部の開発が多いのですが、個人的にはもっとミニマムな部分に関わっていきたいと考えています。大阪では、人やノウハウがたくさん集まる東京とはまた違う発展の仕方があると感じています。

白野さんは大学の帰りにふらっとハイパー縁側に立ち寄ったり、何度か中津に来た事があります。そして、この日実際に中津に入り込んでヒアリング調査をしてみて、アンケートを断られなかったのがすごいと思ったそう!大阪ならではの人情深さがこれなのか、と感じました。
人も多く流動的な梅田とは対照的に、中津は時間がゆったりしていて、多くの人が抱く昔ながらの大阪の印象の発端なのではと感じたそう。

今後、もしこの周辺が商業エリアになって開発が進んでしまうと、一気にパワーバランスが崩れてしまいます。今のうちに地域コミュニティを醸成して、地元住民の方が自ら主体的に動ける形を整えるのが本当に必要な事だと感じています。

白野さんも卒業後は不動産業界の会社に就職して東京に行きますが、新しい開発ではなく、既存の建物を活かしながら地域貢献をしていきたいと考えています。この地域は自分が活性化させた、というようなきっかけづくりができたらと考えています!

来場していた山田廣之信さんがコメントして下さいました。自分たちの時代は、「みんなのために何かしたい」ではなく、「オレが!」の時代で、周りの人のために何かする、といった動機で就職したいとは考えた事がなかったそう。
みんなの大学で過ごしてきた時間は充実していると思うし、やりたい事を持っているからこれからも頑張って下さい、とエールを送りました!

最後に、3人がハイパー縁側で話した感想を伝えて頂きました。
宮原さんがコミュニティ・デザインに興味をもったのは、ハイパー縁側がきっかけでした。今回登壇した事は自分の中でもひとつ成長を実感できたのかなと話します。

田川さんは、大勢の前で話す機会はこれまでそんなになく緊張したが、話しやすかったと言います。夢は持っているだけだと実現には至らない。発信して誰かに伝えて共有する事が実現する第一のステップだと再認識したそうです!

白野さんは自分の夢を語ってみて気づいたのが、自分の考えを自分の中では理解していても言語化するのは難しいという事。実際に話して、他の人の言語化された夢も聞いて、こんな価値観もあるんだと感じた。自分自身もこういった場をつくれるようになりたいと伝えて頂きました。

“まちのアイデンティティ”

3人のハイパー縁側に続いて、金研究室の各班が中津のまちを歩いて調査した事を報告しました!

A班は梅田駅から北西エリアを調査し、「まちの変化」「防犯・治安」「防災」の3点についてまとめました。
まちの変化をヒアリング調査した結果、人の流れは増えてきて新しい飲食店もできてきたが、まちの大枠や雰囲気は大きくは変わっていないそう。交通量の増減についてもあまり実感はないという調査結果でした。

治安についてもヒアリング調査をしたところ、海外の方が多く訪れるようになった事もあり、一昔前は夜、鍵をしていなかったというおばあちゃんも今は鍵をしないとちょっと怖い、という話もありました。

防災については、路地裏の住宅地では隣家同士の距離が近く、火災時に燃え移る可能性が高いので対策が必要そうでした。地域コミュニティは防災に役立つので、将来的にも地域住民の方が主体的に防災活動を行っていける取り組みをしていけたらいいのではないかと提案がありました。

B班は中津商店街や裏側の住宅地を調査しました。中津の魅力を発掘しようというテーマで調査をしてみて、魅力を一言でいうならば「受け入れる寛容さ・自由さ」だと考えます。商店街の和菓子屋さんにインタビューに行って気づいたのは、中津の場所としての特徴は大きな都市の隣の空間にあるという事。

その空間によって、自由さやゆっくりとした時間が流れている事が魅力だと感じました。調査中、インタビューを断られる事はありませんでした。むしろ、相手側の方が興味をもって色々聞いてきて下さったりと、人の寛容さを感じました。

中津商店街は、昔ながらの商店街という印象がありますが、今の時代の需要を満たすお店は残っています。そして、空いたスペースにも今の需要を満たすお店が入ってきている、今どきの商店街だと感じています。

課題として上げたのは、中津はディープさが魅力としてあるが、ディープすぎて初心者には入りにくいという事。ディープな人たちが集まってくるのは良い事だが、それを感じたい人にとってももう少しオープンにできてもいいのでは、と提案がありました。
一例として、月間のスケジュール表を置いているお店がありました。お味噌作りが面白そう、など興味をもって入りやすいきっかけがあり、いいなと感じられました。

C班は西田ビルの東側、線路の北側エリアを調査し、エリアの課題について報告しました。
このエリアは大きく団地エリアとテナントエリアの2つがあります。団地エリアは高層階の団地と低層階の団地があり、世帯数は多いが日中は人気がない事、生活に必要なスーパー・雑貨屋さんが少ない事が挙げられます。

テナントエリアでは小さな企業が多く、一つのビルにたくさんの企業が入る形が多い状況でした。ヒアリングをしてみると、1階にはテナントが入っている事が多いが、2・3階に入る事は少ない状況です。所有者が別だったりと複雑になっていて、事業者が借りるハードルが上がっている事が課題として挙げられます。

このエリアがどうやったらより魅力的になるかを考えてみると、ビルはしっかり建っていて空き地は少ないので、空間的な活用が大事だと考えられます。
2・3階など上の階層に、今この地域にはない生活に必要なお店ができる事で、現状、人通りが少ない地域も地域の目が増え、防犯・防災の面からも安心で、賑わいが生まれます。それが魅力につながるのではないかと提案がありました。

最後にD班は、地下鉄中津駅方面を調査しました。
このエリアも都会とレトロの融合が特徴だと感じられ、ギャラリーやライブハウスもあり文化の集積地・発信地である場所です。また、子供の習い事の教室があまり見られず、タワーマンションには子供のいる世帯より仕事をメインにする世帯が多めなのではと感じられました。

大通りにはオフィス・マンション・チェーンの飲食店が多くあり、路地にいくと個人の飲食店が多く、まち自体にメリハリがあります。飲食で地域を盛り上げるために、個人で事業を立ち上げるためのイベントの場・支援の場として使われている「大阪フードラボ」のような、若者がチャレンジするまちにふさわしい施設もあります。

今回の調査エリアの南東の方にもタワーマンションが建設されています。御堂筋中津駅の東側には既に多くありますが、タワーマンションの勢力がどんどん西側に来ているなという印象があります。

新と旧が交わる場所として、タワマンに来る新しい人も参加しやすいイベントがあったり、地域住民にももっと使えるような場所があったりと、新たに来た人が一歩を踏み出しやすいしくみをよりつくっていけると良いのではと提案がありました。

当日来場していた吉野さんからも、地元住民としてコメントして下さいました。大学院に行ける人は日本の中でも一握り。これからの日本をつくっていく役割を担うという事は「権力」です。これからコミュニティづくりに関わり、自分がやりたいことをやっていく事=権力であるという事。

いい事も悪い事も発見して、色んなアイデアが浮かぶのは良い事だが、さらにその権力を使う事によって、住民にどんな影響を与えるのかをいつも心に留めておいて欲しい。せっかくこれだけいい意図をもって地域を変えていこうとする際に、より良い結果をもたらせるように、このフレッシュな気持ちをもったまま地域と関わって頂きたい、と熱いメッセージを送って下さいました!

最後に金先生から。中津のまちはディープで初心者が入りにくいという話がありましたが、まちづくりに関しても初心者しかいません。中津のまちの受け皿の大きさを感じたので、みんなでこのまちのアイデンティティを保ちながら、これからのまちづくりに自分たちも関わっていきたい!と締めくくって下さいました。

中津を地元として住む人、新たに入ってくる人、そして金研究室のように学生を巻き込んで関わる人。様々な力が集まり、ここ中津がより良いまちになっていくには、やはり「人」が大事になると実感する回となりました!

【宮原 陽海】(写真 右)
立命館大学 理工学部 環境都市工学科 都市地域デザイン研究室
高知県出身、滋賀県草津市在住。
高校生で訪れた関西で大学が一体になった駅に感動して、都市の構造や街中の歩行者道路に興味を持つようになる。3回生のとき、とあるまちづくりの授業をきっかけにまちのソフト面から問題解決するコミュニティデザインを知り、大学院進学を決意し今に至る。
研究テーマとしては、滋賀県草津市にある街区公園のデザインコンセプトを抽出するために、市役所や住民・大学サークルと一緒にワークショップの企画運営を実施。現在は公園やセミパブリックな空間の環境特性に適した着座空間を増やすために研究中。
趣味はバイク旅、キャンプ、釣り、登山。
【田川 龍】(写真 中央)
立命館大学 理工学部 環境都市工学科 都市地域デザイン研究室
熊本県生まれ中国育ち。
生まれが熊本の島で過疎化が深刻であったため、地元の課題解決に寄与できるような知見を得たいという理由から現在の研究室を志望。
特に地方都市におけるコミュニティデザインやエリアマネジメントの相対的価値が高く、持続可能なまちづくりの一助となり得る重要なファクターであると考えている。また、新型コロナウイルスやICT技術の進歩に伴いコミュニティの希薄化が深刻化する中で、地域やコミュニティの中での自身の存在価値の確立こそが持続可能なまちづくりの新しい当たり前にこれからなっていくと考えている。
研究テーマとしては、学部時代は市民活動、現在はシビックプライドに関する研究を行っている。
趣味は旅行、料理、読書。
【白野 裕之】(写真 左)
立命館大学 理工学部 環境都市工学科 都市地域デザイン研究室
大阪府生まれ大阪育ち。
講義、また就職活動を通じてソフト面からまちの活性化・保全が行えることを知り、その可能性について興味をもった事から現在の研究室を志望。
まちづくりを行う上で建物・施設は人々の暮らしを豊かにするツールの一部に過ぎず、その本質は地域住民にあると考えている。都市化が進み地域のコミュニティが衰退している現代だからこそ、地域課題に対して住民らが主体となって解決できるように人々の繋がりを形成する必要があると考えている。
研究テーマは「ネパール・カトマンズにおける仏教僧院の防災拠点化に向けたポテンシャル評価」。
趣味は筋トレ、映画鑑賞、旅行。
立命館大学 理工学部 環境都市工学科
立命館大学 都市地域デザイン研究室