2021年11月12日のゲストは以前にも登壇された兪 在成(ユ・ジェソン)さん。
今回のテーマは「週1の菜食からはじめられる『地球への恩返し』」。

“ヴィーガンの不自由を無くした共存社会をつくる”をミッションに、ヴィーガン&ベジタリアン向け地域コミュニティプラットフォームアプリ Ve(ヴィー)をリリースした兪さん。私たちの地球へどう恩返しできるのか、熱く語り合いました!

今回のテーマに深く関わっている「ヴィーガン」。
一般的なイメージでは絶対菜食主義のようなものを連想しますが、兪さん自身は肉が嫌いなわけでも肉食を否定するわけではないといいます。実際、お肉は週に一回ぐらい食べるセミヴィーガンと呼ばれる食のスタイルをとっているそうです。

実は兪さん、5年ほど前に筋トレにはまっていて以来、体づくりのためにトレーニングと栄養の摂取に力を入れています。体を作るにはタンパク質の摂取が必須で、タンパク質量を確保するために卵や肉を大量に摂るようにしていたといいます。
そんななか、5ヵ月程前にあるドキュメンタリーを見て、世界的に活躍している筋肉自慢たちのなかには多くのヴィーガンがいることを知ります。彼らは動物性タンパク質ではなく大豆などを由来とする植物性のタンパク質を摂取していたのです。

かつての常識では植物性タンパク質はあまりよくないといった考えもありましたが、最新の研究では植物性タンパク質のほうがパフォーマンスが上がるといった結果も報告されるようになっているそうです。
そこで、兪さんは自分の体作りのためにヴィーガンを取り入れました。

そこから、ヴィーガン・ベジタリアン向けのコミュニティアプリを作成することにした兪さん。
やるからには色々知らなくては、ということでヴィーガンについて調べるなかで、ヴィーガンが単なる健康志向のライフスタイルだけの話ではない事が分かってきました。

現在、山火事や干ばつ、洪水など温暖化による影響が深刻になりつつあります。北極の氷が溶け、アルベドが下がり、永久凍土のメタンガスが放出され、負の連鎖が起きつつあります。サンフランシスコでは気温が49度まであがりムール貝が全滅、テキサスでは気温が急激に下がっていて豪雪に見舞われる、そういった情報に触れる中で、兪さんはご自身が思っていた以上に地球はやばいぞ、と感じたそうです。
パリ協定においては地球が危機的な状況になるまであと0.3度ではないかと言われています。また、一説ではその0.3度に到達するまでにはあと6年しかないとも言われています。

兪さんが調べたデータによると、食1kgあたりの二酸化炭素排出量をみたとき、肉はとても二酸化炭素を排出する食材だといいます。ここで兪さんが指摘したのは肉食の単純な良し悪しの話ではなく、畜産業を巡る「構造化」の普遍的な問題でした。
「構造」とは資本主義において便利な生活を築き上げた礎となるシステムです。人間と動物の違いはマニュアルをつくれるかどうかにある、マニュアルを通して我々は物事をシステム化するのだと兪さんはいいます。

畜産の世界では効率化を追い求めて、さまざまな問題が発生しています。たとえば、生まれたばかりの豚は歯と尻尾をきられるそうです。これは、限界まで効率化された環境では、豚たちがストレスにより攻撃や共食いをはじめてしまうため、商品となる肉が傷つかないようにするための対策だといいます。

兪さんがここで問題にするのは動物の権利や倫理観ではなく、人間がどれだけ効率というものを追いかけられるのか、資本主義がどれだけシステム化というものを助長するのかでした。

“地球への恩返し”

兪さんは食事におけるスタンスとして、命をいただくからにはおいしく感謝しながら食べることを大切にしているといいます。確かに私たちは資本主義のおかげで安くいろいろな食べものを楽しむことができます。一方で、兪さんはシステムの中で記号化された食べ物を心から感謝して食べることはできないといいます。

畜産業では効率化のなかで過程は省かれ、一般の消費者はその詳細を知る由もありません。兪さんは、これはアウシュヴィッツを連想させるものだと指摘します。
歴史的な悲劇を起こせしめたのは、現代の畜産業と同じで徹底したシステム化だったといいます。看守は収容所内の人間から切り離され、どうやれば効率よく収監できるかだけを考えていました。非人道的な行いは歪んだ倫理観からではなく徹底的な命の記号化によって起こされていました。

どうしてこんなに地球上に牛がいて豚がいて鶏がいて、牛のゲップが温室効果ガスの問題になっているか、それはすべて人間が自然の摂理に逆らって繁殖し肉を生産するシステムを構築したことが原因なのだと、兪さんは語ります。
それでは、新エネルギー開発のような大それたものではなく、私たち自身でできることはいったい何でしょうか。

先ほどの0.3度の気温上昇を回避するためには、現在の炭素排出量を30%以上減らさなければならないといいます。
このとき、一般的な食事をしている人が週に2回、菜食・大豆ミートや豆腐・納豆などの食事にするだけで、年間の温室効果ガスが29%削減される計算になるそうです。
つまり、週2回菜食すればいいだけ。ということは、私たちが普段の食事を少し見直すだけで地球が変わるのではないか、兪さんの心が動きました。

世界中でヴィーガン人口は増えつつあります。例えばアメリカでは数年でヴィーガン人口は500%増、現在では2,000万人を超えていると言われています。
いままで、一般的にヴィーガンと聞くと思想的で感情論で動く活動家のようなイメージがあり、兪さん自身もあまり好きではなかったといいます。そうではない形で、カジュアルにヴィーガン食を候補として選択できる文化になったらいいなと兪さん自身は考えています。

畜産で働くひとたちもある種の被害者なのかもしれません。構造化された現実の中で誰かがやらければならない事をやり、それをやらなければ家族を養えない、まさに軋んだ現代社会の象徴的な状況です。そうではない未来を大人たちは創っていかなければならない、と兪さんはいいます。
そのためには、エコバック持参以上のアクションを起こさなければいけません。画期的な方法があるのであればぜひやるべきですが、ただし、個人でできることに取り組んでいくことが重要だといいます。

私たちが地球のためにできることをやる、そのためのツールとして兪さんが開発し提供しているのがヴィーガン&ベジタリアン向け地域コミュニティプラットフォームアプリ『Ve』です。
ヴィーガン同士のコミュニティ、カジュアルヴィーガンが気軽に交流できることで、生活習慣や文化を変えていけるのではないか。

例えば、一日菜食しましたか、という質問に答えるだけでCO2削減量が出てきます。ひとりの力では何もできないが、人数が集まれば大きな力を発揮できる、そのつながりを生み出すのがコミュニティの力です。

現代の生活様式は奇形と呼べる形に歪んでおり、例えばひとが亡くなる瞬間に立ち会う、亡骸に向き合うことが極端に減っています。これは病院というものがその過程をスキップしてくれているからです。

過程をスキップすることでの影響の良し悪しや大小はあると思うが、重要なものが引きはがされてしまっていることもままあり、少なくともいまの畜産業ではそれが行き過ぎているのではないかと兪さんは警鐘を鳴らします。
まずは私たちでできることから。世界を変えるのは小さな一歩の積み重ねかもしれません。

【兪 在成(ユ・ジェソン)】
ワーキング・ビー 代表 / 哲学するシリアルアントレプレナー
1987年8月 韓国ソウル生まれ、しし座のA型。2002年まで韓国で子役・ストリートダンサー活動後、2003年に来日。写真専門学校卒業後、約10年間WEBデザイナー・ディレクターとして活動。2016年 株式会社ワーキング・ビーを設立。受託WEB制作・アプリ開発及び自社運営ウェブサービスを展開中。
哲学とミステリー、UFO好き(遭遇経験有り)。現在の座右の銘は「期待せず、希望は持ち続ける」。
WorkingBee
ヴィ—ガン・ベジタリアン向けコミュニティプラットフォームアプリ「Ve(ヴィ—)」