2024年4月16日のハイパー縁側@淀屋橋は、松下隼司さんをゲストにお迎えしました!
テーマは 「しくじり先生が語る、教師の仕事の魅力と本心」

北区の小学校にお勤めで、教師歴22年目の松下さん。『ハイパー縁側』のサイトにメールを送って下さり、本日の登壇となりました。「教師の仕事は、しんどい部分もめちゃくちゃあるけれど、とても面白くて楽しい!」と、言い切ります。現在45才の松下さん、40才を迎えた時には「担任をもてるのも、あと20回くらいしかない…」と、退職を意識して落胆するくらい、教師の仕事に魅力を感じています。本日は、教師の魅力と本心を語っていただきます!

松下さんは愛媛で生まれ、2才の頃に大阪に引っ越してきました。高校生の時に、小学校が舞台のドラマ『みにくいアヒルの子』に感銘を受け、教師を志し教育学部へ進学します。大学1回生の頃、長期休みを利用して「何かに熱中したい!」と考えていると、「自分は、もしかしたら先生になりたいのではなく、先生役を演じたいと思っているのかも」と、感じたそう。すぐに、小劇場で演劇活動を始める事に。卒業後は、2年間、三重の『志摩スペイン村』でショーに出演していたという経歴も。その後、先生になりますが、19才から始めた演劇は10年間続けていた、と言います。

そんな松下さんは、数々の受賞歴をお持ちなのに加えて、絵本や教育書を出版されています。きっかけは、コロナ禍で休校となり子どもに会えない期間に、自分の在り方を見つめた事でした。子どもたちに「何でもチャレンジしよう!」と言いながら、「自分はどうだろう?子どもたちが、学校以外に習い事などにチャレンジしているのに、自分は何もチャレンジできてないのではないか」と、様々な挑戦を始めます。

ダンスの指導技術を競う大会や、読み聞かせコンクール、模擬授業をする大会などに出場し、文部科学大臣賞や優秀賞を受賞。松下さんは、受賞できたのは大阪という土地柄も関係している、と言います。というのも、睡眠不足の子、朝食をしっかり食べていない子、スマホ・ゲームを長時間している子どもの率が、大阪は全国と比較して高い。そんなコンディションの子どもたちと日々向き合う事で、日頃から鍛えられている、と自身を分析します。

しかし、たくさんの受賞歴より松下さんが1番誇れるものは、今まで経験してきた“失敗”だ、と力強く語ります。『教師のしくじり大全』という本を出版し、長い教師人生での失敗を赤裸々に告白して、改善策を提案しています。また、ネットラジオ『しくじり先生の「今日の失敗」』では、日々の失敗を発信中です。

自分自身が、同じ失敗を繰り返さないようにする為もありますが、同じような失敗に苦しんでいる人が、「自分だけじゃないんや」と少しでも元気になるように、という願いを込めています。また、先生の失敗で子どもや保護者が傷ついてほしくない、という強い想いも。例えば、学校を欠席している子の家庭訪問。自分は良かれと思って訪問しても、子どもを驚かせたり、子どもや家庭のニーズに合っていない場合もある。そうなると、ただの自己満足になってしまいます。

20代の頃の失敗談も紹介して下さいました。新しくクラスを受け持ち、「あれもしたい」「これもしてみたい」と、意気込んでいた松下さん。しかし、クラスの実態にマッチしておらず、クラスは思うように成長しなかったそう。自分のエゴを押し付けていた、と振り返ります。

そこから、学級目標をみんなで立てて、どんなクラスにしたいかを共有するようにしました。それも、一握りの子どもの意見ではなく、1人1人の意見を集め、時間をかけて決定。しかし、1学期の終わりには目標がただのお飾りになってしまっていました。時間をかけてみんなで決めた目標を実現するには、どうするべきか、という部分まで思い至らなかった、と反省しました。達成する手立てをみんなで考えるところまでを大事にし、今では具体策を考えて実行し、目標が達成できていたら、花を飾るという風にしているそう。

そのような失敗を重ねて、自分を省みて、改善して、を繰り返してきた松下さんですが、6年生を担任した時に、うまくいかなくて本当にしんどくなった事がある、と打ち明けます。自転車通勤をしていましたが、身体が思うように動かなくて、タクシーで通勤しないといけないほどでした。「授業が、うまくいかない夢をみた」と、50代のベテラン先生に本音を明かすと、その先生も同じような夢をみた、と同じ悩みを抱えていました。

“楽しいから、学んでみよう”

学級状況がうまくいってない時の松下さんの考えは、「授業が良ければいい」というものでした。しかし、子どもからすると、正論を言う先生より、「楽しい先生の授業だったら聞いてみようかな」とか、「楽しいから学んでみようかな」という感覚を持っているはず。そんな、“子ども目線での楽級経営”を意識するようになったそう。

例えば、割り算の計算を解く時に、「先生と競争してみよっか!」と提案。チョークを落としてみたり、少しハンディを与える小技も効かせながら、ユーモアを交えて行います。また、スピードでは負けちゃったけど、「丁寧に書けてるね」と声をかけたり、「先生は、黒板に大きい字書かなあかんし、不利やわぁ」と、負け惜しみを言ったりしながら、子どもたちとのやりとりを楽しみます。
押し付けて学習するのではなく、楽しく学べる工夫をする事で、クラスに笑顔が増える事を実感してきました。

また、松下さんは今まで働いてきた学校の先輩先生に恵まれていた、と感じています。1人で教室にいる時や、廊下を歩いている時に、「困ってる事、あるんじゃない?」「こうしたらいいと思うよ」と、先生達がこそっと声をかけてくれたそう。上から目線ではなく、さりげなく支えてくれる。そんな素敵な先生達に助けてもらった経験があるからこそ、失敗談をたくさんの人に伝えたいというパワーにもなっている、と語ります。

子どもの姿がなく、スーツ姿の方々が多く行き交う淀屋橋のまち。松下さんは普段、学校と自宅の往復で、淀屋橋のようなオフィス街は新鮮だ、と言います。昔に比べて、学校に様々な職種の方を呼んで講演してもらう機会は増えていますが、外に出て体験する機会がもっと増えてもいい、と松下さんは考えています。

郵便局や図書館の社会科見学の他にも、淀屋橋にあるようなオフィス見学ができたら、子どもたちにとって貴重な経験になる。キャリア教育の一貫として、色々な職場を見る事で、視野を広げ、選択肢をたくさん持つことが必要だと考えています。夢は、1つでなくてもいい。3つ、4つ、5つあっていい時代になっている、と語ります。

松下さんは、毎日、子どもたちから学ぶ事が多い、と言います。子どもの優しさ、気づいて動くスピード、純粋さや好奇心。朝、「おはようございます!」と元気に挨拶してくれるだけで、こちらが元気になる。「本当に色々な事を教わっているし、先生をしていて良かった、というところに行き着く」と、しみじみと語ります。

自身を「しくじり先生」と称し、自分の失敗から逃げず、真摯に向き合い続ける松下さん。自分と、子どもと向き合い続けるからこそ、見えてくるものがあり、子どもに届くものがある。失敗を糧に進化し続ける松下さんからは、子どもに匹敵する優しさや好奇心を感じます。
今年度は休み時間など、子どもと過ごす時間をもっと増やしたい、と話すとびっきりの笑顔が印象的でした!

【松下 隼司(まつした じゅんじ)】
大阪市公立学校教諭(22年目)
2児の父
関西の小劇場を中心に演劇活動を10年間
令和6年版教科書編集委員
〈受賞歴〉
▷第4回全日本ダンス教育指導者指導技術コンクールで文部科学大臣賞
▷日本最古の神社、大神神社短歌祭で額田王賞
▷プレゼンアワード2020で、優秀賞
▷第69回読売教育賞で優秀賞
▷第20回読み聞かせコンクール朗読部門で県議会議長賞、自由部門で教育委員会教育長賞
▷令和4年度 文部科学大臣優秀教職員表彰
〈著書〉
▷絵本『ぼく、わたしのトリセツ』
▷絵本『せんせいって』
▷教育書『むずかしい学級の空気をかえる楽級経営』
▷教育書『教師のしくじり大全 これまでの失敗と改善策』
〈連載 / ブログ〉
▷小学館「みんなの教育技術」の『松下隼司の笑ってエブリデイ』
▷ママ・パパの情報サイト「ぐるっとママ」の 『大阪のパパさん先生の笑劇アンガーマネジメント』
▷Voicy『しくじり先生の「今日の失敗」』
絵本『ぼく、わたしのトリセツ』
絵本『せんせいって』
教育書『むずかしい学級の空気をかえる楽級経営』
教育書『教師のしくじり大全 これまでの失敗と改善策』
小学館「みんなの教育技術」の『松下隼司の笑ってエブリデイ』
ブログ「ぐるっとママ」の『大阪のパパさん先生の笑劇アンガーマネジメント』
Voicy『しくじり先生の「今日の失敗」』