2024年5月21日のハイパー縁側@淀屋橋は、上ノ薗 正人さんをゲストにお迎えしました!
テーマは 「“場”づくりのクリエイティブとプロジェクトマネジメント」

大阪生まれ、大阪育ちの上ノ薗さん。お父様は宮崎の方で、ルーツは九州南部にあるそう。大学進学を考える時に、たまたま図書館で、九州大学芸術工学部の存在を知ります。高校生の上ノ薗さんにとって、「芸術」と「工学」は、真逆にあるもの、と感じていたので、「面白そう」と、興味をもちます。

しかし、現役時は、遊びが過ぎたようで不合格。浪人生となり、受験勉強を続けます。夜景を見るのが好きな上ノ薗さんは、勉強の息抜きに、浪人友達と神戸の夜景スポットによく出かけていました。そこで、夜景を眺めながら、「明かりの数だけ、異なった人の営みがあるんだなぁ…」と、感傷的に。まちを鳥瞰する事で、そこには都市計画があって、インフラがあって、自然があって、そして人の暮らしがある、と気づきます。

ちょうど、芸術工学部の環境設計コースのパンフレットが、そんなイメージだったので、音響コースに落ちてしまった上ノ薗さんは、環境設計コースを選択し合格。図らずも、ルーツである九州で大学生活を送ります。

卒業後は大阪に戻り、デザイン事務所『graf』の設計部に丁稚奉公します。ちょうど「ファンタスティックマーケット」というマルシェプロジェクトをスタートした時期で、上ノ薗さんの最初の出勤先は、畑になる前の土地。そこを耕す事が、社会人の第1歩でした。「社会って、色々あるんだなぁ…」と感じたと、当時を振り返り笑います。

上ノ薗さんは、現場担当で、駆けずり回りイベントを作り上げていき、余った時間で、図面を描いたり、清書したりという仕事ぶり。様々な人とコミュニケーションを取りながら、イベントをクリエーションしていく一方で、図面に向き合い、ミクロの単位まで注力する。ある意味、両極端な事を同時にこなす日々だった、と話します。

『graf』で数年働いた後、大学生の頃にインターンしていた建築事務所の方から、声がかかり、再び福岡に戻り働く事に。今から20年ほど前、リノベーションが今ほど浸透していない世の中で、リノベを中心に手がける建築事務所でした。見た目を綺麗に直すリフォームとは全く異なり、スケルトンに近い状態にし、入居者が手を加えたり、入居者同士の繋がりができる事で、“場”がつくられていく。
何かが起きるような、仕組み・仕掛け・設計を施し、建物の不動産価値を上げるチャレンジに取り組んでいました。

例えば、全てを新築する費用を100%だとして、最低限の設備を直すリノベをして、70%の費用をかける。残りの30%は、ソフト面に投資する。上ノ薗さんは、耐震など考慮しないといけない事も多いので、リノベよりも壊して建てる方が精神的に楽だ、と打ち明けます。

“目に見えない価値”

ただ、ソフト面に手を入れる事で、そこで生まれる人々のコラボレーションやプログラムが魅力的な“場”に繋がっていく。面白い人が集い始めると、さらに面白い人の輪は広がります。最初は、投資に見合った価値に変換されないけれど、“目に見えない価値”がじわじわと効いてくる、と言います。また、新築ではなく、今あるものを再利用する方が、「どういう文脈で残す事にしたのか」「どういう建物で、どんな歴史があるのか」など、建物を取り巻くストーリーが人々の心に届きやすい。上ノ薗さんは、そこにも価値を感じていました。

ハードとソフトのリノベーションの他にも、幅広い業務に携わり経験を積み、2014年に関西に戻り、2017年『ロフトワーク』に入社します。現在は、様々な領域のクリエイティブディレクションを担当。また、数年前に、プロジェクトマネジメント国際資格PMPを取得しました。取得するにあたり、プロジェクトマネジメントを体系化した「PMPOK」を学んだ上ノ薗さん。

その発祥は、アメリカのアポロ計画と言われているそう。宇宙にロケットを飛ばすという、とんでもないミッションを成功させる為には、膨大な人々が関わり、莫大な費用をかけ、想像を絶する数のタスクがあったはず。その計画をやりきった事を改めて分解・整理したり、その時使っていたメソッドを体系化したものが「PMPOK」で、プロジェクトマネジメントの元となっています。プロジェクトに関わる人・物・出来事が増えれば増えるほど、複雑になっていく。

それを分類し、この状態の時はこう整理する、こう進める、という風に、“順風満帆にいかない事をいかに順風満帆に進めるか”という方法論がプロジェクトマネジメントだ、と上ノ薗さんは説明します。実は、私たちも日常的にその手法を使っているそう。スケジュール帳に書き込む事もマネジメントの一歩だし、建築でいうと工程管理もそうだと言います。基本的には、目指すゴールに向かっていく事。

向かい方が、上から順々に進める「ウォーターホール型」があったり、動きながら柔軟に考えて進める「アジャイル型」があったりしますが、“場”づくりにおいてはどちらがいいとかではない、と上ノ薗さんは考えています。老若男女、すべての人々に対する、共通の言葉を見つけるのは難しい。だから、“どんな風景が広がっていたらいいのか”をゴールにする事が多い、と話します。

右脳と左脳の掛け合わせの中で生まれる、クリエィテイブの種であるグレーゾーンを大切にする手段として、上ノ薗さんは2つの方法を提案します。ご自身は、計画を立てて進めていく事は苦手だそうですが、計画をきちんと立ててないと不安になる人もいる。一方、勢いのままに進めていくタイプの人もいる。チームの中で、そのバランスをとっておく事が大事だ、と考えています。
よりよい未来に向かっていく過程は、変化が生じるもの。変化を嫌がる考え方、受け入れる考え方がある。どちらの意見を採用するのか。採用の手法をしっかりデザインしておく。そうすると、右脳と左脳の偏りを、可能な限りバランスよく動かす事ができる、と言います。

もう1つの方法は、マインドセット。自分の脳みその中に、振り子のイメージをもち、マンネリ化してきたら、「今日は右脳派で過ごしてみよう」とか、散らかってきたなと感じたら、「今日は左脳派で分析してみよう」と、マインドを変える。すると、視界に見えるものが変わってくるそう。20代の頃は避けていたマインドセットですが、改めて大事だと実感している、と語ります。

上ノ薗さんは、“場”づくりやクリエイティビティには段階がある、と考えています。まずは、自分の内面にある「マインド」にクリエイティビティをどのように宿すのか。その次に「スタンス」がくる。つまり、自分の中に「マインド」をセットした後に、「スタンス」として外に表明する、という変化の順番があるのではないか。そこに、いかに自覚的にあれるかという事が、クリエイティブである事と無関係ではない、と指摘します。
また、目に見えるかっこよさだけではなく、「空気感」や「雰囲気」は、クリエイティブにおいて、重要な要素で、“場”にこそクリエイティビティを乗せやすい、と語ります。

“クリエイティブとは、豊かである”と感じている上ノ薗さん。色々な人のクリエイティビティが発露しているか。外にでているのか。そして、それを見た人が、お互い共有できているのか、が大事。そこには、かっこいいデザインとは、また違う「スキル」がある。その前には、やはり「スタンス」があり、「マインド」がセットされている、と考えています。

上ノ薗さんが2021年に創業した『枠』という会社では、その「マインド」や「スタンス」を育てる事を、ワークショップ的なアプローチで探求中。ワークショップやセッションを通じて、1人1人の内面の部分にフォーカスを置いています。今後も、“場”に対して、『ロフロワーク』『枠』2つの会社で、それぞれ違ったアプローチでコミットしていきたい、と語って下さいました!

まだまだ上ノ薗さんのお話、聞き足りません。次回は、『枠』の取り組みを中心にお話して下さる事をお約束。次回のご登壇が待ち遠しいです!

【上ノ薗 正人(うえのその まさと)】
株式会社ロフトワーク 京都ブランチ共同事業責任者 / 株式会社枠 代表取締役
大阪生まれ大阪育ち。九州大学芸術工学部環境設計学科卒業。
大阪のデザイン事務所grafの設計部を経て、福岡の建築デザイン事務所no.d+a及びプロジェクトユニットTRAVEL FRONTにて大名紺屋2023プロジェクトを始めとしたハード&ソフトのリノベーション、イベント運営、アートプロジェクト等幅広い業務に携わる。
2014年に関西に戻り、グランフロント大阪ナレッジキャピタルの総合プロデュース室に所属。オーストリアのクリエイティブ文化機関アルスエレクトロニカとの協働プロジェクトや、中高生を対象とした学びのプログラムの企画運営を担当。
2017年よりロフトワークに入社。web制作、コミュニティデザイン、空間プロデュースからデザインリサーチまで様々な領域のクリエイティブディレクションを担当。2021年3月プロジェクトマネジメント国際資格のPMP®取得。同年6月に知人と株式会社枠を創業。
2022年度には九州大学大学院芸術工学府非常勤講師としてプロジェクトマネジメントの講義実施、各種イベント登壇など、プロジェクトマネジメントのナレッジを様々な場所・形で活かし伝える取り組みを行っている。
趣味は山登りとお酒と旅。
Loftwork Inc.
Loftwork.com
株式会社 枠
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