2023年10月24日のハイパー縁側@淀屋橋は、高岡 伸一さんをゲストにお迎えしました!
テーマは 「開催直前!イケフェス大阪2023の楽しみ方」

今週末に「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪(イケフェス)」を控え、大忙しの中、ご登壇して下さった高岡さん。9月に天満橋で行われたハイパー縁側では、プロジェクターを使い、建物の写真を交えて紹介。今回は、第1回目のイケフェスから参加しているガスビルを目の前に、ガスビルの魅力や、“生きた建築”に込められた想い、今後のイケフェスについてお話して頂きます。

2014年から、本格的に始まったイケフェスは、今年で10周年。当初は、「イケフェス」と検索すると、「イケメンフェスティバル」がヒットし、イケメンホストの皆さんが並んでいた、と笑います。しかし、今では「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」の内容がずらっと綴られ、知名度の高さを実感する事ができます。
来場者の数をみても、第1回目は1万人でしたが、去年はのべ5万人。公開建物も55件から、今年は過去最大の173件の予定。淀屋橋エリアを核として、大阪市内全域に徐々に広がっています。

イケフェスで公開される建物は、会社のビルや個人住宅、寺や教会など様々。重要文化財に登録されている建物もあります。日本全国に、寺や神社など重要文化財はたくさんあり、壊れないように、汚れないように、綺麗な状態で保存し、守る事が重要とされる文化財。そんな文化財の考え方も大切にしつつ、一方で「建築は使ってなんぼ」と、高岡さんは考えています。
例えば、100年前に建てられた後、デザインや所有者、用途などが変化しながら、長年にわたり使われ続けてきた建物。高岡さんは、そのプロセス自体も、「建物の歴史」と捉え、「プロセスがあるから今がある」と、語ります。文化財の評価軸からいくと、変化する事はよくない。しかし、そうじゃない評価基準があってもいいのではないか、という投げかけをしたい。現役で、生き生きと使われている建物に価値を見出したい、という想いを込め、そんな建物たちを、“生きた建築”と表現します。

高岡さん自身も建築家として活動中で、比較的古い建物のリノベーションや設計に携わる事が多いそう。ひとつひとつの建物を、改修して長く使う事も大事。同時に、魅力的な古い建物の存在を広く知ってもらわないと、残す意味が半減してしまう。「どうしたら、たくさんの方に知ってもらえるか」と、考えている時に、大阪市として、それを実現できそうな事業が立ち上がったので、委員に手を挙げた、と言います。大阪には、神戸や京都にも匹敵する魅力的な建物がたくさんあります。知ってもらうには、「やはり見てもらうのが1番」と考え、無料で一斉に建物を公開するオープンハウスイベント「イケフェス」の開催に繋がりました。

大阪市の事業としてスタートしたイケフェス。市が主催する最初の3年で下地ができた後に、実行委員会を立ち上げ、民間主催にスライドできたのは、とても幸運だった、と振り返ります。ただ、参加費は無料で、5万人も参加する大きなイベントを維持する事は、とても大変な事。民間主催になってからは、企業の協賛や、ガイドブックの売り上げなどで成り立っている、と言います。

当初は、建物の所有者にイケフェスの趣旨を説明し、賛同してもらうところから始める必要がありました。趣旨が伝わらない事もしばしば。普段、そこで働いている一般の方からすると、普通のオフィスビルに感じ、「公開したところで、誰が見に来るのか」と、半信半疑でした。しかし、いざイケフェスが始まると、たくさんの建築好きの参加者が訪れました。そんな実績を重ねていくうちに、広く知られるようになり、ここ数年は、建物側から「イケフェスで、建物を公開したい」と、声がかかる事も多いそう。参加者からすると、素晴らしい建築を体感でき、建物関係者は、建物の価値や魅力に気づくきっかけになる、と言います。

“「自分ごと」がたくさんあるまちになる”

イケフェスの特徴は、専門家が建物の解説を行うのではなく、建物のオーナーさんや、建物で働く方が解説を行う事。オーナーさんから直に、熱のこもった話を聞ける事は、とても貴重な体験です。そうしているうちに人との関係ができ、翌年も「あそこのオーナーは元気かな」と建物だけでなく、人に会う事も目的になります。“人ごと”ではなく、“自分ごと”に変わる。そして、まちにそんなポイントが増えていく。ただ住んでいるまち、ただ働いているまちではなく、“自分ごと”がたくさんあるまちになる、と語ります。

建物を公開する側も、社内教育一環として、建物の歴史を学んだり、イケフェスに合わせて、社員全員でビルの大掃除をする会社もあるのだとか。すると、建物に対しての“愛着”が湧いてきて、長く大切に使おうという気持ちに繋がります。また、住んでいるまち自体に“愛着”をもつように。大阪に住んでいる事、働いている事を誇りに感じる事ができる。さらに、自分の建物だけではなく、まち並みを意識するようになり、「ここがこうなったら、もっと魅力的なのにな」という目線を持てるようになる。意識していなかった景色が、興味の対象に変わっていく。都市空間全体に意識が向く事で、「大阪の都市空間全体が活性化する原動力」になるのではないか、と高岡さんは考えています。

基本的に、建築物は誰かの所有物ですが、イケフェスの期間は、みんなで共有できるものになる、と言います。時間と空間、さらに価値観を共有する事ができる。そして、それが自分のまちの“愛着”に繋がります。
ただ、歴史のある建物も多い事もあり、後継者問題を抱える建物がある事も事実です。イケフェスを通じて、「社会全体で残していこう」という機運を高め、「残した方がいいよね」という雰囲気を作る事も、イケフェスの役割だ、と力強く語ります。

ガスビルの開発に関しても、取り壊して新しく建て替えるのではなく、残す判断をした「大阪ガスさん、さすがです」と感嘆の声。すでに発表されたデザインを見ると、ガスビルを現代的にアップデートしながら、西側に建設予定の高層ビルと繋がるデザインで、「完成がとても楽しみ」と、期待している高岡さん。また、建設予定地の暫定利用として、「GAS STAND」を運営し社会実験を行い、成熟した後にビルができる、という事にも意味があるのではないか、と感じています。

「GAS STAND」の発起人である白木さんは、ガスビルは、1933年に建てられ、文化財に登録されている南館と、1966年に建てられた北館があり、戦前と戦後が一体となっているビル。建築ビギナーから玄人までが楽しめる、とガスビルの魅力を語ります。個人的に戦後に建てられたビルが大好きという高岡さんは、「北館特集しましょう!」と提案し、盛り上がりました。

「長期的な展望はもてないタイプ」と、自身を分析する高岡さんですが、この手のイベントは続けることが大事だと考えています。ロンドンのオープンハウスが30年続いてる事に比べると、イケフェス大阪はまだ10年。細く長く、コンスタントに開催していきたい、と将来を見据えます。その為にも、任意組織であったイケフェス実行員会を、法人化することを決定。組織を固め、イケフェス以外の時期にも、建築イベントを開催したり、グッズや書籍を販売予定だそう。通年で、大阪の建築の魅力を発信する組織にステップアップする、と語って下さいました!

イケフェスを通じ、大阪に住まう人々の愛着心を育て、大阪の都市空間全体の未来を、豊かで誇らしいものにしていく。ただ素晴らしい建築に触れるだけでない、イケフェスの魅力を存分に感じました!

【高岡 伸一】
建築家 / 近畿大学 建築学部 准教授
1970年大阪生まれ。生きた建築ミュージアム大阪実行委員会事務局長。大阪を中心に、近現代建築の再生などを多く手がける。主な作品に大正時代の銀行建築をリノベーションした『丼池繊維会館』(2016)など、主な著書に『新・大阪モダン建築』(共著、2019)など。

イケフェス大阪