2023年10月7日のハイパー縁側@天満橋は、増田德兵衞さんをゲストにお迎えしました!
テーマは 「日本酒の新しい挑戦」

トレードマークの蝶ネクタイを身につけ、昨年10月に続き、2回目のご登壇となる德兵衞さん。1675年、伏見で創業した『増田德兵衞商店』の14代目を担い、現在はご子息に社長を譲り、德兵衞さんは会長を務めています。
前回は「Miss SAKE」のお2人も一緒に、「Miss SAKE誕生秘話」や「乾杯条例」についてお話いただきました。今年も天満橋京阪シティモールで「うまいもんと伏見の酒まつり」が開催される中、「日本酒の新しい挑戦」について語って頂きます!

前回に続きご準備して頂いたのは、火入れ1回の「月の桂」のひやおろし。9月9日に解禁になり、秋口にいただくお酒を会場の皆さんと楽しみます。「弥栄(いやさか)〜!」のかけ声で、乾杯。「昼のお酒は、やっぱりええなぁ」と、笑顔の德兵衞さん。皆さんと贅沢な時間をかみしめます。

酒蔵に生まれた德兵衞さん、幼少期の遊び場は蔵の中。いつも蔵人に遊んでもらっていた、と振り返ります。イタズラをして怒られ、昼から夜になるまで、桶の中に入れられた事も。

小学校の頃は、「将来、酒蔵を継ぐんだろうな」と思っていたそうですが、大学を卒業する頃には継ぐ意思はなく、アパレル系の会社の内定をもらっていました。結局、反対もあり、東京の日本酒問屋に就職し、5年勤務した後に伏見へ戻ってきました。

日本酒を造るお父様は、テイスティングのみで、日本酒を全く飲まなかったと言います。日本酒に囲まれている環境で日本酒が好きだと、死ぬほど飲んでしまうという心配から、暗示をかけてもらっていたそう。すると、日本酒に興味はないけれど、日本酒以外のお酒に目覚めたお父様。ワインや中国酒など、家には世界中のお酒が常に揃っていました。
伏見の組合の新年会でも、お父様だけはシェリーを嗜んでいたそうで、「人間、偏っていた方がいいのかもしれない」と、德兵衞さんは笑います。

また、お爺様は日本酒に纏わる浮世絵を集めるのが趣味で、「日本酒の樽を持つお相撲さん」や、「酒瓶を抱え花見に出かける舞妓さん」を描いたものなどをコレクションしていました。盃に関しては1千個もあり、日本酒そのものだけでなく、“周辺文化”をとても大事にしていた、と話します。

酒造りの技術の話や、火入れなどの道具も大切。でも、それだけでは面白くない。“周辺文化”を大事にして楽しむ事で話が広がり面白さが増す、と德兵衞さんは考えています。

そんな環境もあってか、德兵衞さんが数年前から取り組んでいるのは、お酒を混ぜ合わせ、新しい味わいのお酒を造る事や、違う酵母を使ったり混ぜ合わせたりする事。

「いかに均一のものを、きっちり造っていくか」というのが、昔からの感覚。しかし、もうそろそろやめていいのではないか。毎年毎年、味が変わる方が面白い。そんな考えが受け入れられてきているのではないか、と感じています。

“「間」を感じながら生きる”

「毎日、変なものを色々と飲みます」と話す德兵衞さんは、普段から、日本酒以外のアルコールもみんなで楽しんでいます。濁り酒とビールを混ぜて濁りビールにしたり、テキーラと日本酒を混ぜる事にも挑戦中。酒蔵メーカーからすると、混ぜ合わせる事は「邪道」とされますが、德兵衞さんは「気にならない」と言います。世界の食の幅が広がり、豊かになっている中で、お酒のバリエーションももっと増えてもいい・もっと楽しめばいい、と考えています。

京都の酒蔵3社で、“アッサンブラージュ(混ぜ合わせ・組み立て)”して新しい日本酒造りにも取り組んでいます。ただただ混ぜて、均一のものを造るのではなく、組み立てて次のステップのものを造り上げる、“建築”のようなイメージと説明します。それぞれの酒蔵がもつ、濁りや搾りたてなどの特徴を生かしながら考えるそう。

「キムチ用」「ピザ用」「肉用」さらには「鰻用」など、料理に合わせた日本酒を造っています。「餃子用」はどうか、と言う話がでると、「ぜひ取り組みましょう!」と意気込む德兵衞さん。早速、古酒も混ぜて…と、イメージを膨らませます。

アッサンブラージュを始めた頃は、日本酒25種類を並べ、1つ1つテイスティングして、これとこれを混ぜて…と、みんなで相談していました。ただ、火入れして止まっているものも、そうでないものもあるので、混ぜ合わせた後、1ヶ月経つと味わいがすっかり変化していました。

また、多くの種類の酒を混ぜると、税務上、提出する書類が大変になる。だから、酒の種類を絞り込み、誰でもしやすく、且つ美味しさを求められるように今後も取り組んでいきたい、と挑戦は続いています。

「日本酒業界をもっと面白くしたい」と、新しい挑戦を続ける德兵衞さんですが、日本酒業界に対して「危機感だらけ」と打ち明けます。

日本酒の消費量は、昭和28年頃がピークと言われ、日本酒を飲む人も生産量も減少し、4分の1にまで落ち込んでいると言います。また、人口減少に伴い飲食店自体も減っていき、さらにはアルコール度数も高いものから、低いものが好まれる傾向も。

そして、德兵衞さんの酒蔵でもそうですが、酒造りに携わる人も減っています。昔ながらのきつい仕事というイメージが残っているのも要因です。德兵衞さんは、ゼロから造り上げる達成感を味わってもらえる魅力的な仕事だ、と言います。近年、クラフトビールが流行していて、クラフト系のものに興味をもつ若者は多い。夏はビール造り、冬は日本酒造りに携わるのはどうか。単体のものを造るだけでは広がらない。両方学ぶ事で知識が増える、と德兵衞さんは笑顔で提案します。

また、スイッチを押したら何もかも出来上がる時代ですが、手仕事の価値を見直すことも大切、と話します。自分の手を突っ込んで米の潰れている感触を感じ、香りを嗅ぎ、舐める。“動物的な感覚”はやっぱり大事。特に醸造発酵のものは、最終的な味を決めるのは“人間の感覚”だ、と言い切ります。

10年前、「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。德兵衞さんらは、「伝統的なこうじ菌を使った酒造り」の文化遺産登録を目指しています。日本が生んだ「こうじ文化」をもって、「日本はきらめいている」という感覚を作り、世界に発信していかないと落ちていってしまう。

世界に向けた“突破口”のようなものが必要。これをきっかけに、若者が興味をもち、日本酒造りにも関わってくれたらありがたい、と話します。まだまだ世界中には日本酒を知らない人も多い。ベースは日本に置きながら、様々な工夫をし、日本の文化と共に世界に知ってもらいたい、と力強く語ります。

最後に、5年後に何をしていたいか、と言う質問に対しては、“健康でいる事”と答えます。身体的だけでなく、精神的・経済的にも健康でないといけない。また、友達や周りの人の存在が重要。
美味しい料理・美味しいお酒を、どんなシーンで誰と飲むのか、を常に大切にしている德兵衞さん。周りの人が健康でないと、自分自身も健康でない。周りの人を健康にできるお酒造りをしていきたいと、語ります。健康・元気と共に、“間”も大事。人間も“人の間”と書きます。そんな“間”を感じながら生きていきたい、と語って下さいました!

この秋は、「うまいもんと伏見の酒まつり」以外にも、様々な場所で日本酒のイベントが開催されます。また、来年の春にはNFTイベントも開催予定。柔軟な発想と思考をもつ德兵衞さんの、新しい挑戦は続いていきます!

【増田 德兵衛】
株式会社増田德兵衞商店 代表取締役会長 /「月の桂」蔵元14代目当主
1955年 京都市伏見区に生まれる。
1991年 株式会社増田德兵衞商店代表取締役社長就任(十四代目襲名)
伏見酒造組合理事長、京都府酒造組合副理事長、前日本酒造組合中央会理事・海外戦略委員長。
同志社大学事業継承学会理事、桃山学院大学エンターテイメント講座講師。
農林水産省和食ユネスコ無形登録委員、全日本食学会理事、和食文化国民会議理事。
日本酒造組合中央会乾杯推進委員会委員。
ミス日本酒顧問。 文化庁諮問委員会委員。
「月の桂」株式会社増田德兵衞商店