2023年10月6日のハイパー縁側@淀屋橋は、稲嶺一夫さんをゲストにお迎えしました!
テーマは 「中央区将来ビジョン〜ゆるやかにつながるまちを目指して〜」

「行政関係者が、面白い話できるかな」と、言いながら、テンポ良くトークを始める稲嶺さん。現在、中央区の区長を務めています。生まれも育ちも大阪の稲嶺さんは、就職先も大阪市役所を選択。USJの関連事業・浪速区リバープレイス・平野区クラフトパークなど、ハード系のまちづくりに従事してきました。

数年前には、あいりん地区を担当。その頃はちょうど、あいりん地区が様変わりする時期でした。福祉的な事など、今度はソフト面でも関わり、とても勉強になったと振り返ります。

そして、あいりん地区担当の経験を活かし、区長の公募に応募した稲嶺さん。西成区長かと思いきや、平野区長になる事に。平野区長の任期満了後、再び手を挙げると次の配属先は中央区でした。

大阪市中央区は、平成元年に東区と南区が合併しスタート。大阪市の中では最も新しい区で、当初は人口5万人台でしたが、現在は11万人を超えています。昔から事業所も多く、昼間人口は50万人近くにもなるそう。近年はタワーマンションが次々と建ち、ファミリー層が増えている、と言います。

西成区のまちづくりに励むつもりでしたが、中央区に配属され、「ほぼほぼ、まちづくりの整備が終わっている中央区で、自分は役に立つのか?」と、疑念を抱きます。しかし、「自分はなんでここに居るのか、追求していくと必ず発見がある」という思想をもつ稲嶺さん。

中央区の特徴や将来像を考えていくうちに、自身がタワマンに住み、マンションの理事長を長年務めていること。マンション管理士の資格、さらには防災士の資格を持っている事を鑑みると、「取り組むべき事は、マンション防災や!」という発想に至ります。

約9割の人々がマンションに住んでいる中央区。「マンション防災」は、多くの人の命に直結する問題です。地震が起きた時に、「耐震構造がしっかりしているタワマンに住んでいるから大丈夫」ではもちろんない、と力強く訴えます。

マンションではない場所で被災するかもしれない。停電でエレベーターが停止すると、高層階の自宅まで階段で上がるのも、自宅から下りるのも難しい。また、避難するとなっても、避難所はどこなのか。地域の町会長さんや防災リーダーは誰なのか。普段から、心得て、繋がっている必要がある、と言います。

“ゆるやかな繋がり”

また、防災以外でも、65才以上の7人に1人が認知症になると言われている現代。徘徊する認知症患者や家族が周りとの繋がりを持っていなければ、発見が遅れるのではないか。命に関わりかねない、と話します。「何で町会に入るんですか?」という声も聞きますが、メリットとして災害など、いざという時に助け合えたり、普段の生活を見守り合える。「命と生活に密接に関わるセーフティーネットが、月何百円って格安ちゃいますか?」と、稲嶺さんは提言します。

そして、その繋がり方は“ふんわりでいい”と続けます。フランスでは、アパルトマンで孤独死が起きてしまった事をきっかけに、「隣人祭り」が始まったそう。ワインとチーズを中庭に持ち寄り、住人同士がおしゃべりをする。通りすがりに参加できるような気軽なものです。そうすると、「何合室?」「ご家族は?」と、自然と会話が生まれ、ゆるやかに繋がる。

そんな「隣人祭り」を、日本のマンションでもやってみようと画策中だそう。ただ、日本のマンションでは、エントランス飲食禁止の規制があったりして、果たせていません。集会所で行うと、通りすがりに参加ができない。やはり、中庭やエントランスのような場が最適なので、再度チャレンジしていきたい、と考えています。

中央区の魅力の1つに、餅つきなどの「地域の祭り」が積極的に行われている事をあげる稲嶺さん。他にも、民間主体で、公園を利用した花火大会なども開催され、地域の中でイベントが自主的に行われています。タワマンの高層階にもその賑やかさは伝わり、「楽しそう」「ちょっと行ってみようか」と下りてきて、人が集うような状況が起きています。

ヨーロッパの路地では軒下でお酒を酌み交わし、あれこれお喋りするような風景を見かけますが、そのような楽しみ方ができる人が中央区にはたくさんいる、と指摘します。例えば、船場エリアは社会実験中で、そんなまち並みを実現しつつあります。ご近所さんと顔を合わせ、ビール片手に井戸端会議をする。「いざという時は、ここに避難するんやで」など、自然とそんな話題もでたりする。難しい事ではなく、普段の繋がりがあると、もっと楽しいまちになっていくと考えています。

また、中央区は劇場や飲食店も多く、ナイトライフを楽しめるところも魅力。しかし、ひと昔前はオフィス街の真ん中に住むのは、「ちょっとしんどい」という印象でした。

しかし、マンションが建って実際に住んでみると、娯楽も多く、どこに行くにもアクセスがいい。職住近接となり、便利でゆとりのある生活が可能に。そこに、防災などの危機管理を加え、ゆるやかに繋がりながら住む。そうする事で、“本当の住みやすさ”を実現できるのではないか、と稲嶺さんは考えています。

多くの人が訪れ、働く場があり、“賑わい”がある中央区。中央区将来ビジョンには“賑わい”だけでなく、“ふれあい”も大きなテーマとして掲げています。交通の便が良く、歴史や文化が豊か。思いの外、「地域の祭り」もあり、ベースがいい。

あとは、体験できるチャンスが必要だと言います。そこで、船場エリアのまち歩きを楽しんだり、道頓堀で船に乗ったりできる機会も企画しています。

“人が主役”

以前、文化担当で劇場作りに関わった同期の方から、「劇場を作る時に、1番大事な事は何か?」と問われたそう。それは、「光が漏れない、真っ暗になる空間を作る事」と教えてくれました。光が漏れていたら、舞台が生えない。舞台装置にお金をかける事が全てではない。最低限の仕様が整っていれば、人が集う。あくまでも人が主役。人が集い、心地よい空間であればそれでいいのでは、と考えています。

そんな稲嶺さん、魅力的な中央区について、何より凄いのは“人”だ、と言い切ります。ここに居て、文化や経済を支えている人の話を聞くと、「やっぱり、この人たちすごい。1人1人がすごい。」と、改めて感じるそう。
区長になって得した事は、様々な人と交流しやすい事・話を聞ける事、と笑顔で語ります。

秀吉の時代に下水を完備したまち並みが始まり、今に繋がっている大阪のまち。まちづくりに対するDNAは受け継がれていて、大阪の人の中にあると言います。「GAS STAND」でも、歴史的なエッセンスを残しながら、地域コミュニティの場をつくる事に取り組んでいて、ありがたい。

「次の世代に残す、ええまちにしたい」と、多くの中央区民が願っています。自分たちの世代で消費するのではなく、未来のまちをどのようにつくるのか、という事に意識が向いている。それを今後も次の世代にバトンタッチしていきたい、と語ります。

稲嶺さんは、中央区に住む人だけでなく、働く人・学んでいる人・訪れる人も中央区民だと捉えています。昼間に災害が起こった時にどうするか。上町台地にみんなが避難するだろうから、どう受け入れるのかを、中央区の町会の方々が想定しているそう。

そんな人たちがいる事が本当に頼もしいし、凄い事だ、と感じています。行政を通さず、避難所の開設状況、混雑具合が分かる防災アプリも民間で開発されています。そのようなものも利用しながら、中央区民みんなで、このまちを一緒に快適にしていきたい、と力強く語って下さいました!

【稲嶺 一夫(いなみね かずお)】
大阪市中央区長
◆経歴
1959年4月15日生まれ(64歳)
1966年4月 大阪市立築港小学校 入学
1972年4月 大阪教育大学附属池田中学校 入学
1975年4月 大阪星光学院高等学校 入学
1978年4月 大阪大学法学部 入学
1982年4月 大阪市役所 奉職
住之江区役所 統計調査・選挙関係
建設局 審査・施設整備・USJ関連事業
都市整備局 総務・株式会社派遣
福祉局 生活困窮・ホームレス・あいりん対策
平野区役所 区長
中央区役所 区長
◆趣味・特技
読書・旅行(ドライブ・ツーリング)
珠算2級、マンション管理士、宅地建物取引主任、FP2級
大阪市中央区
中央区将来ビジョン2023-2027