2023年9月23日のハイパー縁側@天満橋は、高岡伸一さんをゲストにお迎えしました!
テーマは 「祝第10回イケフェス大阪の魅力とその広がり」

5月に天満橋のハイパー縁側に登壇して下さった高岡さん。配信デバイスの不具合でアーカイブ出来ず、幻の回となってしまいました。来月に「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪(イケフェス大阪)」を控え、再びご登壇。イケフェスの魅力や見所と、これからのイケフェスについて語って頂きます。

建築家として活動しながら、近畿大学の建築学部で教鞭をとる高岡さん。また、イケフェス大阪実行委員会の事務局長を10年務めていて、「事務局体質が染み付いてきました」と笑います。

イケフェス大阪とは、大阪の歴史的建築から現代建築まで、魅力的な建築を無料で一斉に公開するイベント。普段から入ることができる建物もあれば、製薬会社や証券会社などセキュリティの厳しい建物、個人住宅など、イケフェスの期間のみ公開される建物も少なくありません。また、建物だけでなく、建物内部の照明・家具・彫刻なども見所なんだとか。

2013年にテストイベントを行い、2014年から本格的に始まったイケフェス。その年は10月の土日、2日間にわたり開催され、55件の建物を公開。のべ1万人が参加したそう。新型コロナの関係で、2020年・2021年はウェブ開催となりましたが、回を重ねるごとに公開建物の数も、参加人数も増えていきます。

2022年は138件公開され、参加者も5万人を数え、「日本最大の建築イベントと言える」と誇らしげに語る高岡さん。さらに今年は、過去最高の172件が公開予定です。

今年、初公開されるのは28件で、安藤忠雄さんの初期の建築「ガラスブロックの家」や、スパニッシュ様式の「旧河崎邸」など、住宅建築が増えました。申し込み制で、抽選に当たらないと入れない建物も多く、「当たるまで、毎年申し込んでくださいね」と、笑顔で話します。

お目当ての建物を目指し、東京など遠方から来られる方も。抽選にはずれてしまったり、廻りきれなくて、毎年参加するリピーターの方も多いそう。

イケフェスの面白さの1つは、「建物の何を公開するか」「どう見せるか」は建物のオーナーさんに任せている所。青焼き図面や補修時に剥がしたタイルを出してきて、展示するオーナーさんもいます。そして、オーナーさん自らが建物の案内をし、建物への想いを語ります。

「大阪の方は話がうまく、ホスピタリティが高い。専門家が話すより面白い。」と、高岡さんは絶賛しています。苦労話や建物への愛着・歴史など、オーナーさんだからこそ語れる話を聞くことができます。また、イケフェスのように、オーナーさんと参加者が直接コミュニケーションを取れるようなイベントは、他ではなかなかないそう。

今年は、建築ができあがる現場、例えば設計事務所の公開にも力を入れていると言います。今年50周年を迎える日本設計のオフィスでは、50年の歴史を展示。仕事や会社を知ってもらおうと、100%自費にも関わらず、かなりこだわった企画になっています。

また、大きな事務所だけでなく個人の建築家のアトリエでも、建築が出来上がるプロセスを模型で展示し、丁寧に説明してくれます。建物を公開する皆さんの「どうせ公開するなら、参加者に楽しんでもらおう、自分たちも満足するものにしよう」という“想い”や“こだわり”に、イケフェス大阪は支えられていると語ります。共に創りあげていく、1年に1度の“祭り”なんだと高岡さんは表現します。

他にも、設計事務所を巡るスタンプラリーがあり、コンプリートすると景品がもらえるおもしろ企画や、村野建築の専門家の解説も好評です。また、石材店の社長さんによる産地や仕上げの解説をきける、石にフォーカスした建物ツアーも企画。マニアにはたまらない、と評判です。イケフェスでは毎年、公式ガイドブックを出版。建物の所在地や公開時間、ツアーなどの情報が掲載されています。参加者は、綿密な計画を立て、建築巡りを楽しみます。

高岡さんは、大阪はガイドブックを片手に廻るのにちょうどいいコンパクトなまち、と言います。計画を立て廻るのも醍醐味ですが、フラッとまちに出るなら船場エリアは建物が密集しているので、廻りやすいとアドバイス。参加の形は人それぞれで、様々な楽しみ方ができます。

また、ガイドブックには建築家のインタビューや、小説家のエッセイも掲載されていて読み物も充実しているので、当日参加できなくても満足度の高い1冊になっています。

イケフェスのお手本となっているのが、30年ほど前からロンドンで始まったオープンハウス。2日間で800件の建物が公開され、25万人が訪れる世界最大の建築イベントです。実行委員会のメンバーや高岡ゼミの学生など30人を超える視察団で、5年に1度のペースで渡英。今年は視察年にあたり、ちょうど2週間前に帰国した高岡さん。今年のオープンハウスの写真も披露して下さいました。

“日常の中に建築がある”

2013年、高岡さん達が初めてロドンのオープンハウスを訪れた時はバナーがあちこちに立てられ、建物の前には行列ができていて、お祭り感が満載でした。しかし今年は、バナーや建物に並ぶ行列もなかったと言います。今までのように、建物を一斉に見て「わぁ、すごい!」と言って次々と見て廻るのではなく、対話の中で建築の事やロンドンのまちの事をじっくり学んでいこうという、“コミュニケーション重視型”に変わったのではないかと高岡さんは指摘します。

ロンドンから始まったオープンハウス。今では世界中に広がり、約50都市で開催されています。その都市が集まり、「オープンハウスワールドワイド」という国際組織があり、大阪も加盟しています。国内でも「京都モダン建築祭」や「神戸モダン建築祭」など、日程をずらし、関西圏で開催されます。

イケフェス10周年を迎え、ようやく京都や神戸にも波及してきている、と高岡さんは実感しています。「関西の秋は、建築の秋ですね」と笑顔で語ります。

イケフェス大阪では、何件の建物を廻れるか、を重視しがちですが、今後は今年のロンドンのオープンハウスのように、空間自体をじっくり満喫する過ごし方をしてもらえたら、と考えています。

その中で、オーナーさんや参加者同士の会話を楽しみ、体感する。それを通じて、大阪のまちや大阪のまちを支える人たちの事を実感してもらう。“落ち着き”や“成熟”も大事にしていきたい、と話します。

そして、京都・神戸に広がってきましたが、今後は各都市で、当たり前のようにオープンハウスイベントが開催されるようになれば、建築に対する認識が変わるのではないか。“日常の中に、関心事として常に建築がある”そんなまちを、大阪が先頭を切って実現していきたい、と力強く語って下さいました!

【高岡 伸一】
建築家 / 近畿大学 建築学部 准教授
1970年大阪生まれ。生きた建築ミュージアム大阪実行委員会事務局長。大阪を中心に、近現代建築の再生などを多く手がける。主な作品に大正時代の銀行建築をリノベーションした『丼池繊維会館』(2016)など、主な著書に『新・大阪モダン建築』(共著、2019)など。
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