2023年1月27日のハイパー縁側@中津は、なちょさんをゲストにお迎えしました!
テーマは「なちょが見据える美しく心悲しい世界」

フリーランスのデザイナーとして活動しながら、デザイン専門学校のイラストレーション学科の講師をされている、なちょさん。本日は、なちょ先生の本質に迫るため、生徒の皆さんも駆けつけてくれました。

なちょさんが教える学科の生徒だけでなく、なちょさんの絵を立体的なフィギアにしたいという、フィギア学科の生徒の姿も。「なちょ先生の絵を見て、作りたい欲が掻き立てられました!」と、語ります。10代の方も交えて、いつもより格段に平均年齢が下がったフレッシュな雰囲気で、ハイパー縁側スタートです!

まずは、なちょさんのプロフィール写真の話題から。昨年の個展用に用意した写真は、骸骨を片手に持ち、骸骨と対峙するなちょさんの横顔。「アー写(アーティスト写真)を撮りたくて、携帯で自撮りしてかなり加工しました」と、笑います。

そのプロフィール写真や骸骨などをモチーフに描かれた作品を先に見ていたら、「骸骨を描いているアーティスト、どんな人なんだ?」と、ざわつく方も多いですが、実際のなちょさんは声のトーンも明るく、とてもフレンドリー。作品と写真と本人を見比べ、「何も合ってない」と、よく言われるそう。

大正区ご出身で生まれも育ちも大阪のなちょさん。物心ついた頃から、絵を描いていました。幼稚園の時には『セーラームーン』のキャラクターを真似して描いたり、漫画やアニメの可愛い女の子や、かっこいい男の子を頻繁に描いていた、と言います。

「いつから闇落ちしたのか」と、明るく語り出すなちょさん。小学校の頃からダークファンタジーが好きだった、と振り返ります。RPGのゲームに出てくる勇者よりも、モンスターが好きだったり、漫画『ベルセルク』にはまったのも小学生でした。

「綺麗すぎる作品は好きじゃない、人間ってもっとドロドロしてるものじゃない?」と、問いかけます。『ベルセルク』はどこまでも貶める悲しい物語で、愛や幸せだけでなく醜さや愚かさなど人間の全てがつまっていて、より人間を感じられる。
人間関係においても同じで、人の良い面だけでなく、闇の部分を見るとより好きになるそう。「人間っぽいな、人生を生きてるな」と感じて共感する、と話します。

『ベルセルク』の物語の流れの中で、堕ち方が凄まじくそこに感化され、“人としての美しさ”を見出した、と語るなちょさん。綺麗なものを描くのではなく、“恐怖・醜さなどの「負の感情」をいかに美しく表現できるか?”、分かりやすく言うと“全ての生き物に平等な「死」をどう表現できるか?”。自分の「死」の概念をどうにかして表現したい、と言います。

“「死」の概念を美しく表現する”

死ぬことは、自分の想像を超えていること。そして、全てが悪く悲しいことではない。ある種の救いや希望がある、と考えているなちょさん。その部分を芯とし、ポジティブを織り交ぜながら「死」と向き合い、表現しています。

本日は、なちょさんの作品を数点持って来て下さいました。「死」を骸骨・「生」を蝶で表現した作品や、虎の頭蓋骨と兎を描き、寅年から卯年への変化を表した作品。

さらに印象的だったのは、タイトルが『辺獄』という作品。キリスト教では、天国でも地獄でもない場所を『辺獄』と呼ぶそう(諸説あります)。自然の風景だけど、どこか物悲しい世界を表現しています。この景色の中に自然ではない何か(蛍光色の赤で塗られた、月のような太陽のような丸いもの)を描くことによって、不気味さも表しています。『辺獄』に関しては、言葉から想像して作品作りをしましたが、テーマを決めずに作ることも多い、と言います。

ざらざらしたテクスチャーを使っていたり、箔を使っていたり、凹凸がある作品。また、色味も実際に見るのと画像で見るのでは、全然違う。「画像で見ると質感が死んでしまうので、ぜひ原画を見て欲しい」と、語ります。

なちょさんが「死」をテーマに考えるようになったのは、特に衝撃的な体験をしたからではなく、思考の中から生まれてきたもの、と言います。人が亡くなるニュースや祖父母の死を前にすると、その人の人生を勝手に思い巡らすそう。感情移入をしやすい方で、お葬式に行く機会があると、「生前、幸せだったのか」「故人の身近の人は、どんな気持ちなのか」と、深く考え引きずってしまうときもある、と話します。

「未熟だからこそ、感情の起伏も激しいのかも」と、自己分析をするなちょさん。しかし、抱えるとしんどくなる感情も、作品として表現することで浄化できている、と言います。自分にも必ずやってくる「死」。ネガティブなことではなく、だからこそ今を頑張って生きないと、身近な人を大切にしないと、と思えるきっかけにもなっている、と明るく語って下さいました。

最後は、生徒の皆さんに、なちょ先生の魅力を語っていただきました。
明るいなちょ先生の雰囲気と闇深い作品とのギャップが魅力、と言う声がある一方、深い悩み事も丸ごと受け止めてくれる先生なので、作品のテイストと先生の雰囲気は一致して納得している、と言う意見も。

どちらにしても、しっかり話をきいて相談にのってくれて応援してくれる先生、と皆さんは口を揃え、生徒からの信頼の厚さを感じます。

なちょさんの抱負は、毎年「飛躍」。今年も、「とりあえず飛びたい!」と、元気に語って下さいました!手描きの作品が多いので、今後はデジタル作品な、色々な分野の作品を作りたい、と意気込みます。

想像力と創造力に長け、唯一無二の世界観を創り上げるなちょさん。なちょさんの人柄や考えに触れて作品を見ると、より一層なちょさんワールドを楽しむことができます。8月には面白い展示を企画中だそう。一風変わったものになるとのことで、期待が高まります!

【なちょ / Nacho】
イラストレーター / デザイナー
大阪府出身・在住のアングラ絵描き。
フリーランスのデザイナー兼大阪デザイナー専門学校の講師として働きつつ、関西を中心に数々の展示会や即売会に出展しています。
主にアクリル絵具・油絵具を使用し、死と生をテーマに仄暗い絵を描いています。
傷や血、髑髏といったモチーフを好み、美しく心悲しい世界を表現することを目指しています。
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