2022年3月13日のハイパー縁側@塩屋は橋口 陽平さんをゲストにお迎えしました!
テーマは「塩屋の手づくり 場づくり 関係づくり」
今回は、塩屋町9丁目の市営住宅跡地でハイパー縁側が開催されました。橋口さんは、その目と鼻の先で「庭のジプシー」という屋号で造園業をされています。鹿児島県霧島市で生まれ、緑に慣れ親しみ高校生まで過ごし、大学進学を機に東京へ。大学では、グラフィックデザインを学びました。
しかし、広告やグラフィックの世界に未来を見いだすことができないと感じた橋口さん。そこで、広告系ではなく、造園業の会社に就職したのが11年前だと話します。
大学時代、住んでいたアパートのベランダで、ガジュマルとナスを育てていたそう。ガジュマルは大好きで育てていたのに対し、ナスが大嫌いな橋口さんは、「ナスさえ食べることができたら、世界中に嫌いな食べ物がなくなる!」と、どうにかしてナス嫌いを克服したかった、と言います。
「自分で育ててみたら、食べられるかも!」と考え育て始めます。そして、たわわに実ったナスをもぎって焼きナスにして食べると、すごく美味しかったそうです。この瞬間に、植物は“育てて、味わえて、実りを分け合えて、愛でることもできて、可能性に満ち溢れている”ということに気づいた、と話します。
ナスを育てたことをきっかけに、東京で造園業に携わります。就職先の会社は、出張造園作業を引き受けており、キャンピングカーとクレーン車で、呼ばれたら全国どこでも駆けつけるスタイル。九州で作業をしたら、その後は全国のお得意さんを廻り、司令を遂行しながら東京に帰るので、3ヶ月ほどの長期出張も。
他の造園屋さんから、好奇の目で見られていたと言います。しかし、「それが、今のスタイルの原点になっている」と笑顔で話します。
東京で3年働いた後に独立。名前が一人歩きしてほしいと、独立する際に名付けた屋号が「庭のジプシー」。場所を特定せずに仕事をするスタイルの「ジプシー民族」に影響を受けたそう。
最初、神戸に居た仲間1人と長田区のシェアハウスを拠点に仕事を開始。神戸を選んだのは、西日本の各地に廻りやすく、東京のお得意さんや地元の九州方面にも出やすいということが理由だったと言います。
縁もゆかりもほぼない神戸で始めた頃は仕事がなかったのですが、“仕事があるところに行けばいい”と考える橋口さん。造園業者がいない島根県のまちを訪ね、知り合いのつてで庭のメンテナンスの仕事を請け負い、何とかつないできたと話します。
続けていくうちに、兵庫・京都・大阪方面での仕事も軌道に乗っていきます。
また、苔玉などの小作品も受注制作している橋口さん。東京の「恵比寿三越」の20周年イベントでは、島根県から持ち込んだ赤松と石や土を使った作品を展示。日本のルーツを島根で感じ、島の根っこを表している作品だそうです。
3年ほど経ち、街中のアパートでは仕事道具が収まらなくなってきた橋口さんは、一軒家を探し始めます。以前から知り合いで、塩屋にお住まいの澤井まりさんとの繋がりから、市営住宅跡地にほど近い一軒家に出会いました。ちょうど同じタイミングで、市営住宅跡地のアドバイザーとしての依頼も舞い込んできます。「この土地に呼び込まれました」と笑います。
そして、市営住宅跡地の活用について、地域の方々と話し合いが始まります。まずは、草薮だったこの場所の草刈りからスタート。しかし、広大な敷地を当初は多くても10人ほどで作業をしていたので、草刈りに3年くらいかかったと言います。
その後、ブドウ作りのスペシャリストで、ワインレストランを営む宮本さんが加わり、ブドウを植え始めます。現在、ブドウの植え付けやブドウ棚を作る作業がほぼ終わり、市営住宅跡地の一部がブドウ畑に。他にも果樹を植え、実りを分け合える空間作りに落とし込めてきた、と話します。
“自然の摂理”
橋口さんは、土地の立地条件や特徴を一貫して捉えて植物を植えています。神戸は六甲山系に属するので、六甲山系に生えている植物を7~8割植え、残り2~3割をブドウなど、多様性を生むような植物を植えているそう。六甲山系の西端に位置する塩屋が、六甲山の自然地理を活かさないのはもったいない、と力強く話します。
元々生えていた植物は活かしたい、と橋口さん。作業中にでた笹や雑草などは場外に出さず、この土地で循環させています。過去に土砂崩れが発生したこともあるという斜面が多い地形に対しては、植栽で水の動線確保をしたり、その土地にあるもので土留めを作成。コンクリートを使う現代土木的な手法ではなく、古の土木手法のイメージだと、橋口さんは話します。
塩屋のまちは、高台エリアと海抜が低い駅前エリアに分かれていて、市営住宅跡地はちょうどその真ん中にあります。植物たちの力を借りて、実がなる頃には高台エリアに住む人と駅前エリアに住む人の交流地点になれば、と考えています。
また、市営住宅跡地横の橋口さん所有の竹林の斜面部分にウッドデッキを作り、実った果実をみんなで食べられる“拓けた場所”にしたい、と話します。究極の話、「みんなが寄り集まれる、温泉みたいな場所を作りたい!」と、野望も聞かせていただきました!
塩屋には、バイタリティーが溢れ、何でも自分たちでする縄文人レベルの人が多いと橋口さん。懐に飛び込み勉強させてもらっていると言います。「塩屋の人たちなら、本当に温泉を掘り当てそう!」と盛り上がりました。
ナスをきっかけに植物の魅力に気づいた橋口さん。穏やかな口調の中に、植物への愛情をたっぷり感じました。
今後も自然の摂理に従い、その地域の環境を活かした空間作りをしながら、いつか温泉を掘り当てることに期待したいです!