11月9日のゲストは、木彫前田工房の木彫師 前田暁彦さんをお迎えしました。
テーマは「木彫の伝統技術を未来に伝える」。

木彫前田工房はだんじり彫刻の職人集団です。
2021年1月に岸和田から大阪市内の天神橋へ工房を移しました。大阪市内へ出てきたのは、岸和田でだんじりの仕事が激減したから。

だんじりは1度作ると70~80年、長いもので100年は使用されます。
平成の30年間はだんじりの新調ブームで、南大阪エリアのだんじりもほぼ新しくなりました。故に、何百~何千台とだんじりは存在しますが、今、次の新調の仕事はありません。

「このままでは仕事の取り合いになる。幸運にも木彫前田工房は3年後までだんじりの新調の契約がある。逆に挑戦するなら、3年間の猶予がある“今”。その後は全くないので、この3年間で都会に出てたくさんの方に見てもらい、木彫りで新しい仕事を創り、だんじり彫刻を残していきたい!」

そう思って、人が多くいる大阪市内に工房を移転されました。独立して12年を経た岸和田から大阪市内へ出てくるのは、かなりの勇気が必要だったそう。

だんじり彫刻において親方の一番大事な仕事は、“下絵”を描く事。
下絵は、仕事を依頼頂いた町会の皆様と彫師で打合せをしながら描いていきますが、「実は木を掘る作業よりも、下絵を考える作業が一番大事。絵が上手じゃないと彫師にはなれない。」と前田さんは言います。

前田さんも弟子の時代に、親方から毎日「絵の勉強せぇよ。掘る技術は10年も修行すれば誰でも彫れるようになる。絵はセンスなので、センスを磨くために良いものをみて、良い絵を見て、自分で勉強せぇよ。」と言われました。

下絵を描くのは、とても地味な作業。木とにらめっこをして、ひらめくまで、待ちます。
前田さんは、「彫師は木と喋る事が出来る。」と言います。木とにらめっこしていたら、木の方から「こう彫りましょうよ。」と語りかけてきます。それが降りてくるまで時間がかかるし、悩みます。
また、下絵のシーンのイメージを膨らませるために、現地へも足を運びます。故に、下絵はすぐに思い浮かぶ事もあれば、1ヵ月悩む時も。

だんじりの制作には、ケヤキを使います。
一般的なケヤキは非常に硬く、建築の構造材に使われるような木材ですが、前田さん達はケヤキの中でも木目の細かい“トロ”のような、ふわふわの部位を選定して、彫ります。

弟子の数は減っています、と前田さん。
かつて、だんじり大工やだんじり彫師といった“だんじりの仕事”に携わる事は、南大阪の子供達にとって“夢”の仕事でした。
しかし、現在は祭りも下火になり、さらにコロナ渦で2年間も祭りが止まった事も重なり、だんじりの仕事に携わる“なり手”の数も減っているそう。「そういった面でも、この伝統をどうやって残していくのかが課題。」と前田さんは言います。

お弟子さんの仕事量の確保は、“親方”としての悩みです。
前田さんが弟子の頃に腕を磨けたのは、仕事があったから。仕事があったので、毎日木を彫る事ができ、上手くなりました。仕事がなくなると、木を彫る事が出来ないので、腕を磨きたくても出来ません。そうなると伝統は続かないし、自身の伝統技術を「継承」する事は不可能になります。

“伝統を継承する使命”

「だんじり彫刻にも流派・一門があり、その流れを継承して次世代へのバトンとして繋いでいる。だんじり自体が300年続いている事なので、受け継がれている技術を我々の世代で途絶えさせる事は出来ない。弟子や従業員に、技の系統を残していかなければならない“使命”が自分にはある。だから、仕事を創らなければいけない。途絶えさせたら、その流派は終わってしまう。」

「“守る”だけが“伝統”ではない。伝統はその時代にあわせて変わっていくものなので、どんどん新しいことに挑戦していこうと思っている。周りからは批判されるかもしれないが、その時代時代にあったことをしていけば、仕事は必ずある。この厳しい時代を乗り越えるために、一旦だんじりから離れたとしても、技術が衰えない努力をすれば良いだけの事。」

「たとえ、形がだんじりでは無くなったとしても、作る物は変わったとしても、だんじりの木彫りの技術を違うものに転化させたらいい。なので、市内に出て来て企業コラボなどで新しいものを創っていき、木彫りの技術を残そうとしている。」

そんな信念から、前田さんは海外展開も積極的に行っています。
ドバイでの出展や、先月までは2年間、フランスで作品展をしていました。フランスはアートが身近な事もあり、現地の反応はずば抜けて良く、日本では伝統工芸だったものがフランスではアートとして評価されました。

最後に、多くの方に見てもらうために市内へ出てきたので工房見学はいつでもOKです、と前田さん。
皆さんも一度、だんじり彫刻の力強さとその伝統文化に触れてみてはいかがでしょうか。

【前田 暁彦】
株式会社木彫前田工房 代表取締役
1976 年大阪生まれ。
1999 年弟子入りし 10 年の修行の後、 2008 年木彫前田工房設立。2021年株式会社木彫前田工房として法人化。
お客様のご要望にお応えするのは勿論のこと、そこにいか に「前田らしさ+α」を加えるかに挑戦し、「前田にやって もらって良かった」と言っていただけるような彫師、人間に なろうと思っております。
「木彫前田工房」の社訓でもある「知行化他」の言葉を胸に、弟子達にも受け継いでもらい、ここ岸和田の地車彫刻というすばらしい文化と技術を、日本のみならず世界に広めていきたいと思っております。
株式会社木彫前田工房
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