2024年7月31日のハイパー縁側@淀屋橋は、瀬島 京子さんをゲストにお迎えしました!
テーマは 「船場ビスポーク “対話から生まれる場づくり”」
涼しげな水色のスーツと、濃いブルーのシャツを着こなし、颯爽とご登壇の瀬島さん。登録有形文化財である船場ビルディングで、オーダーメイドサロン『船場ビスポーク』を営んでいます。月1回開催されるライトな交流の場『船場サロン』に、友人に誘われ訪れると、『GAS STAND』を運営する大阪ガスの白木さんと出会います。その出会いがきっかけとなり、本日の登壇へと繋がったそう。

瀬島さんは、生まれは大阪ですが、4才で九州にお引っ越し。鹿児島・沖縄・宮崎など九州各地を転々とする子供時代を過ごしてきました。厳格な家庭に育ち、田舎での暮らしを窮屈に感じていた瀬島さんは、「大きなまちに出て、自由になりたい!」という願望を抱いていたと言います。
19才の時、大学進学を機に大阪に上京。外国語大学に通っていたので、ネイティブの先生や帰国子女も多く、半分外国のような環境でした。それも相まって、とても解放された感覚があった、と振り返ります。しかし、最初は話すテンポが速く、物をはっきり言う大阪の文化に、カルチャーショックを受けたそう。慣れてくると、逆に裏表がなく、はっきりしているのが気持ちいいと感じ、「今は、私自身がすっかり大阪のおばちゃんです」と、笑います。

大阪に移り住んだ後も、箕面・神戸・枚方など、引っ越しを重ねてきました。「私、引っ越し好きなんですよ」と、引っ越しをポジティブに受け止めている瀬島さん。新しい土地に住み、生活圏が変わるのが面白く、新鮮な気分を味わえる事が魅力。普段から、新しい環境に飛び込む事や、チャレンジする事を大切にしている瀬島さんの信条は、“自由・挑戦・成長”、と語ります。
大学卒業後は、アパレルメーカーに就職。その後、ロンドン留学を経験します。そして、結婚・出産を経て、人材キャリアコーディネーターや、金融企業の秘書の仕事に就きます。キャリアコーディネーターや秘書の仕事を通じて、ビジネスパーソンと会う機会が多かった瀬島さんは、「見た目で損をしている人が多い」という事に気づきます。「面談に来られている方の、第一印象がもったいない」「自分らしい装いをする事で、第一印象を良くする事ができるのに…」と、感じていました。

そこで、瀬島さんは「格好よくする側」になる事を決意し、老舗テイラーでの修行をスタート。4年以上修行した後、オーダースーツの仕事をフリーで始めます。しかし、まもなくコロナ禍に突入し、外販ができない日々が続きます。
何ヶ月も家に居ざるを得ない期間を過ごす中で、「自分の価値観を打ち出せる場所をもちたい!」という気持ちが湧いてきたそう。ただオーダースーツを売るのではなく、深い対話をする事で、お客様のスタイルをつくっていきたい、と考えていました。

そんな瀬島さんが選んだ場所が、歴史を大切にする船場に佇む、船場ビルディング。駅近でもないし、最新のビルでもないけれど、ここをわざわざ来てもらう場所にしたい、という想いがありました。歴史のある重厚な建物。店内は、一枚板のテーブルが印象的で、「BARっぽいね」という声も多いのだとか。完全予約制で2〜3時間、しっかりお客様の声に耳を傾けます。
「be spoken」は、「承る」や「対話する」という意味の英語。ビスポークは、オーダーメイドを指します。“オーダーは、対話から生まれる”という理念がとてもいいな、と感じた瀬島さんは、対話をとても大切にしています。最初にきくのは、「どんな生地がいいか」ではなく、「何が好きなのか」「どんな仕事をしているのか」。さらに、「どんな将来を目指していくのか」という話まで。

“装いは、自分らしさの表現”
“装いは、自分らしさの表現”と考えている瀬島さん。対話を重ねる事で、パーソナリティを引き出し、自分の内面にぴったり合うスタイルで自信もってもらいたい、と語ります。また、非日常でリラックスできる空間で、「話せて楽しかった」という気持ちで帰ってほしい、と願っています。
オーダースーツを作る仕事は、結婚や就職のお祝いなど、お客様の節目に立ち会える仕事。とても光栄で幸せだ、と瀬島さんは笑顔で話します。節目に仕立てたり、プレゼントされたスーツは、袖を通す度に“想い”を感じる事ができる。ただの洋服以上の意味が宿るのではないか、と考えています。
また、オーダーメイドは、究極のエコ。受注生産なのでロスもでないし、環境に優しいウールやシルクなどの天然素材を用いる事も多い。そして、長く着てもらえる事も、環境負荷が高い現在のアパレル業界で、嬉しい事だと感じています。

しかし、はっきり言うと、オーダーで作るのは、めんどくさい。時間も手間もかかり、値段も高い。手早く、安く手に入るファストファッションに対し、スローファッションと言えます。また、デフレが長く続いた日本では、「安いものがいい」という風潮が根付いている、と瀬島さんは指摘します。
一方、ヨーロッパでは、ファストファッションへの規制ができたり、服や靴の修理に補助金がでる制度が整っている国も。世界的には意識が高まっている中、日本でも職人の技術に見合う価値や価格を、きちんと知ってもらう事が必要。瀬島さんは、縫製を担当していないからこそ、その技術や想いをしっかり伝えていく事を大事にしたい、と力強く語ります。付加価値をつけて、みなさんに届ける責任が自分にはある、と捉えています。

全ての人に、全てのものをオーダーメイドに、というわけではない。ただ、オーダーメイドを選択肢の1つにしてほしい。「大切なものは、オーダーメイドにする」というような選択肢がある事は、とても豊かな事。それを今後も広く伝えていきたい、と話します。
瀬島さんは、廃棄される生地見本をアップサイクルする活動にも取り組んでいます。もともと、とてもいい生地なので無駄にせず、アーティストの手で、ぬいぐるみやアート作品に生まれ変わります。作品をきっかけに、オーダーメイドに触れ、興味をもってもらえたら、と考えています。

『船場サロン』『船場倶楽部』に入ったり、船場のまち以外にも、中津や阿倍野、神戸など様々な地域のコミュニティに積極的に参加している瀬島さん。そこには、2つの理由があると言います。1つ目は、シンプルに「面白い人が好き」という事。知らない事を知れたり、自分にはできない事をしている人の話をきける事が楽しい。また、「自分の価値観から遠いところにこそ、ヒントがある」と感じているので、ジャンルや職業を問わず、幅広く人々と関わりたい、と考えています。
2つ目は、繊維産業で栄えてきた船場のまち全体の価値が、さらに上がるよう貢献したい、と考えているから。店名を『船場ビスポーク』としたのは、船場のまちへのリスペクトの気持ちを込めて。船場に店を構えられた事は、とても光栄な事と噛み締める瀬島さん。最近は、船場の歴史を改めて学ぶ事で、船場のまちがさらに好きになってきたそう。自分の関わるまちが好きで、誇らしく思える事は、とても大事な事だと感じています。

今後も、この場所で、お客様1人1人とゆったりと向き合っていきたい、と穏やかに語ります。お店は1人で営んでいますが、応援してくれるお客様を、サポーターのような、仲間のように感じています。来年、船場ビルディングは100周年。そんな信頼できる方達と、一緒に楽しめるイベントを構想中なんだとか。
“ただファッションが好き”というところからスタートした『船場ビスポーク』。自分の気持ちだけでなく、ご縁やサポート、応援のおかげでここに辿り着いた。ある意味、流れに身を任せた、と話す瀬島さん。とは言え、持ち前の好奇心や対話力、明るい人柄で流れを自ら引き寄せてこられた印象を受けました。

全ての出会いや経験を糧にし、自分の信条を守りながら、丁寧に歩みを進める瀬島さん。瀬島さんだからこそ伝えられる事、瀬島さんにしかできない事、これからも発信し続けてほしいですね!

オーダーメイドサロン「船場ビスポーク」店主
大阪府堺市生まれ、九州育ち(人生で引越し13回)、大阪外国語大学卒。
教職を目指すも就職氷河期で夢破れ就職。「とりあえず働くなら好きなことしたい!」とファッション業界に。国内大手アパレルメーカーで勤務後、英国ロンドンに留学。
帰国後に結婚、出産、専業主婦を経て人材会社のキャリアコーディネーター→第2子出産&専業主婦→大手金融企業の秘書として勤務。
その当時の上司に言われた「瀬島さんがみんなをカッコよくしてあげたら」という言葉に一念発起、創業約100年の老舗テイラーにて4年半修行。
その後2021年1月、船場ビルディングにて「船場ビスポーク」を開店。
家族は中1&高3の娘、会社員の夫、愛犬チェリー(柴犬♀14歳)
船場ビスポーク
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船場ビルディング