2024年6月7日のハイパー縁側@中津は、並河 杏奈さんをゲストにお迎えしました!
テーマは 「緑とやさしさを考える〜亀岡の暮らしとネイチャーポジティブ〜」
並河さんは、生まれも育ちも亀岡。地元の小・中学校に通い、高校はバスケットボールに打ち込むため、京都市の学校へ進学しますが、亀岡から通学。大阪の大学に進学した時も、片道2時間をかけ、通学していたそう。語学留学で半年間イギリスに住んだ以外は、亀岡暮らし。そんな並河さんは、相当な亀岡愛で溢れているのかと思いきや、特別に大好きなまちという訳ではない、と笑顔で話します。亀岡は“絶妙な心地よさ”がある面白いまちだ、と感じていると語ります。

京都市の西に隣接する亀岡市。真ん中に保津川が流れていて、京都市の嵐山へ向かっていきます。川を軸に、線路や高速道路が走り、温泉街もあります。近年、亀岡駅北側の再開発が進み、サンガスタジアムやマンション、ホテルなどが建設され、賑わいをみせているそう。市街地から5〜10分離れると自然が広がっているのが亀岡の特徴。
並河さんは、京都から電車に乗り、亀岡に着く直前のトンネルを抜けた時に広がる田園風景がお気に入り。田植えの時期は、一面が水鏡。夕日が射す時間帯は、反射してとても綺麗だ、と言います。電車内でスマホを見ていた乗客も、みんな顔をあげ、外を眺めるのだとか。

盆地という事も相まって、空が広く、夕日が綺麗に見える亀岡では、夕日が美しい日にはSNS上にたくさん夕日写真があがり、「みんな、夕日を見てるんだなぁ」と実感する、と並河さんは話します。
また、10月から春にかけては、霧が立ち込めます。地上だと、視界を悪くしてしまう霧ですが、上から見ると雲海がかなり美しいそう。10月には、山鉾が並ぶ『亀岡祭』や『かめおか霧の芸術祭』が城跡で開催され、活気に溢れます。

そんな亀岡に関わり続けている並河さん。大学卒業後、亀岡の商店街の活性化の仕事に携わり、その後、京都府の移住促進事業に参画。現在は、一般社団法人を立ち上げ、亀岡をフィールドに、現地コーディネーターを務めています。
並河さんは、単に旅行の案内をすると言うよりは、大学関係者や学生と一緒にフィールドリサーチをしたり、「どういう風に、人と自然は生きてきたか」などの企業研修を行います。また、「より深く日本文化を知りたい」と考えているインバウンドの方もいて、「里山」という言葉を知っている方の案内もするそう。

「里山」とは、人の暮らしと自然の暮らしの中間地点みたいなもの、と並河さんは説明します。人間が手をかける事で、自然の恵みをいただくという、“ちょうどいい関係性”ができている、と捉えています。ただ、海外と日本では、自然環境が全く違うので、「里山」がどのように伝わっているかは分からない、と言います。
例えば、高い山がないオランダの方にとっては、100mくらいの山を高い山と感じますが、日本には3000m以上の富士山のような山々があるので、100mでは山と感じない。森についても、フィンランドの森は重機が入りやすく、計画的に森をつくる事ができる。それに対して、日本の山は傾斜が急なので、まず重機が通る道路が必要。東北の方では、重機が入れないので、馬搬という文化も栄えてきたくらいだ、と話します。
山の高さも、土地の形状も、何もかもが違うので、自然観は異なっている。山や森林というものに対しての感覚は違うという事を理解しながら、コーディネートを行っています。

“旅に出る”
インバンドの方を案内する機会が多い並河さんは、定期的に旅に出る、と言います。もともと、飛行機の離陸の瞬間や上空からの景色を眺めるのが好きな事と、物理的に離れる事で、俯瞰して地元を見る事ができるのも、旅に出る理由なんだそう。何より、実際に現地を訪れ、現地の方々の関心は何かを知りたいし、話したい。そして、自然に対しての想いや考えに触れ、“共通する感覚”を見つけたい、と考えています。
最近、店を開いたり、移住をする人々が増えている亀岡。というのも、京都市の地価が高騰している事が要因。京都市で店を構えたり暮らしたりするのに、コストがかかってしまうので、亀岡や大津へ向かう人が多く、ここ数年、亀岡は転入超過なんだそう。また、京都市内だと競合が多いので、“原っぱ”を求めて来る人々も。地元の人からすると、何もないと感じる“原っぱ”ですが、「面白い事をしたい」「何か始めたい」と、移住してくる人にとっては、とても魅力的な“原っぱ”。
並河さんは、“原っぱ”が“原っぱ”であり続けるには、どうするべきかを考え続けている、と語ります。駅前の再開発についても、地元の50代以降の方々は、まちが綺麗になる事に喜びを感じています。一方で、古き良きものやコミュニティを目当てに移住してくる層にとっては、「どこにでもあるまち」になってしまうと、魅力がなくなってしまう。色々なジレンマがある、と打ち明けます。

コロナ禍が明け、観光都市京都ではオーバーツーリズムが大きな問題となっています。そこで最近は、京都市外に目を向ける観光業者も多いそう。大型バスで、茅葺き屋根の美しい集落がある美山町を訪れ、宮津市の天橋立に向かうツアーも。数年前に訪れた際は、写真撮影やトイレ休憩を済ませ出発する、いわゆる“ゼロドルツーリズム” が発生していた、と並河さんは指摘します。
観光客数は増加しているけれど、地元にお金が落ちていない。この数年は駐車場代やガイド付きツアーなどでキャッシュポイントをつくられていますが、地域経済に還元・循環が生まれなければ、住んでいる人にとって良いものにならない。今まさに、行政を含め“地元の人の幸福度を上げる観光”を推進していくタイミングが来ている。観光マネージメントが重要だ、と並河さんは考えています。

移住者が、1年間で消費するお金は130万円と言われています。観光だと、インバウンドの方6〜7人のグループが滞在すると、ちょうどその130万円ほどになる。だから、観光庁は観光を進めていく方針を打ち出しています。
130万円の獲得の仕方と、地域の循環率の高め方がキーになってくる、と並河さんは感じています。コロナ禍を経て、観光によって「地域の経済やコミュニティに貢献できる」という意識は高まっている。そのための受け皿をどう作っていくのか、取り組んでいきたい、と語ります。

昨日、フランス人の方を案内した時に、「なんで、日本人はそんなやさしいの?」と聞かれた並河さん。昨年、アメリカの方を案内した時も、同じ質問をされ「自分の知り合いを案内しているから」と答えると、「そうではない!もっと根底にある、日本人のやさしさを感じる!」と、言われたそう。
半年くらい経ち、私たちのベースが、“農耕民族”だという所にヒントがあるのではないか、と感じたと言います。

例えば、たくさんできた作物を、みんなで分け与える気持ちが常にある。そうなると、今の社会を構成する植生・気候風土があって、さらに地形にも関心が進み、日本人の基盤がどこになるのかを探したくなった並河さん。
日本の骨格がどのようにできたのか。縄文の人の流れ、弥生の人の流れ、そして今、自分たちはどういう風に生きていくのか。並河さんはルーツを知っていく事が楽しくなり、そこから“やさしさ”についても深く考えるようになった、と語ります。
「ここまで話を広げるつもりはなかったんですが…」と微笑む並河さん。まさにグレートジャーニー、と会場全体で広大なスケールの話で盛り上がりました!

今後、挑戦したい事は、ゲストハウスを開く事。また、地形から地域を読み解くツアーを進めていきたい、と考えています。透明な風景の中に含まれているものの見方を、対話を通して見つけていくツアーです。「地方は何もない」と植え付けられていますが、「聞こえてくる音」や、「射してくる光の形」に気づけば、もっと地方は楽しくなる。「何もない事はない!」と伝えていきたい、と野望を聞かせて下さいました!
並河さんの柔らかな人柄と、知識の深さに魅了され、一体感で包まれた会場。すでに、並河さんのツアー参加希望者が続出。日本人のルーツを探る、“やさしさ”に触れる旅に、今すぐ並河さんと出かけたくなりますね!


一般社団法人Fogin 代表理事
京都府亀岡市生まれ。大学卒業後に地元商店街にて商店主と講座形式のイベントを企画。その他、コミュニティ映画「かめじん」制作、地方でのライフスタイルに関心がある20~30代向けのイベント企画、WEBメディアを中心に取材・執筆などを行う。2018年より株式会社ツナグム(京都移住計画)にて京都府の移住促進事業に参画。2020年に一般社団法人Fogin(フォグイン)を立ち上げ、現在は、亀岡市にてコミュニティ・ツーリズム「Harvest Journey Kameoka」の運営事務局や各種事業において現地コーディネーターを務める。
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