2024年5月28日のハイパー縁側@中津は岸本景子さんをゲストにお迎えしました!
テーマは 「映画がつなぐ、絆の輪。」

家族とのつながりや再構築をテーマに、地域に根ざした映画を撮り続けている映画監督の岸本さん。6年前、中津を舞台にした映画『グッド・バイ』を制作した事をきっかけに、ハイパー縁側の存在は知っていたそう。「憧れのハイパー縁側に出られて、夢がまた1つ叶いました!」と、柔和な笑顔で話します。

岸本さんは、これまでに香川県さぬき市で撮影した『ある夏の送り火』や、西淀川区が舞台の『家族の肖像』など、13年間で7本の映画を発表。どの映画も、地域の人々と一緒に映画づくりに取り組んできました。地域の人と共に映画づくりをするきっかけになったのは、1本目の映画・岡山県総社市で撮った『HEAVEN』から。岸本さんは、音楽や映画の専門学校を卒業後、自分の創作活動として映画づくりに励んでいました。

たまたま岡山県総社市のまちづくりNPOの方と知り合いになり、一緒に映画をつくる事に。そこで、地域の方を巻き込みながら映画づくりを進めていく経験をします。自分の映画づくりから派生して、「様々な人のプラスになる可能性」を感じた岸本さん。そこから、常に地域を意識するようになり、地域の人と映画をつくるスタイルを貫いています。

今回、淀川区のシアターセブンにて、岸本さんの6作品を日替わりで上映する「岸本景子監督特集」が開催されました。『家族の肖像』を観た方が、岸本さんの過去作を観てみたい、と劇場にリクエストが入り、特集上映の実現に至ったのだとか。

「岸本景子監督特集」を開催するにあたって、グリーンのバックに赤色が映える印象的なポスターを作ったのは、藤原さん。撮影場所は、『家族の肖像』の舞台である西淀川区の中心地の交差点。岸本監督の作品が、「生と死」をテーマにしている事や、岸本さんの生い立ちなどを踏まえ、交差点という危うい境界線のような場所で撮影したかった、と語ります。

また、「生命」をイメージした赤色のコート・赤信号・赤い看板が、背景のグリーンと対照的で引き立ちます。このグリーンは、藤原さんや岸本さん世代が影響を受けた、ウォン・カーウァイの世界観を表現したそう。「こういう色味にしたら、岸本監督が喜ぶと思って」と、藤原さんは笑います。
実は、真っ赤なコートは、行きつけの韓国料理屋さんのお姉さんにもらったのだとか。ポスターに込めた熱い想いと、裏話を打ち明けて下さいました。

大阪で生まれ育った岸本さん。映画づくりを始めてから、総社市やさぬき市が舞台の作品をつくってきました。地元の大阪で映画をつくりたい、と感じて制作したのが『グッド・バイ』。岸本さんが通っている教会が中津にあった事もあり、大阪の中でも中津が候補地になったそう。

まちづくりセンターに、「映画を撮りたいんですが、どこかお勧めのエリアはありますか?」と相談に行くと、撤去予定の高架の存在を教えてもらいました。高架があってはしご車が入れないので、ビルの高層化が進まず、街並みが残っているという話をきいた、と言います。

岸本さんは、ちょうど「変わりゆくものと、変わらないもの」をテーマに、家族の物語を撮りたいと考えていました。『グッド・バイ』は、離婚した妻が再婚するのを機に、娘と会えなくなる夫が、思い出づくりに娘と2日間を過ごす話。家族の形成は変わるけれど、変わらないものもあるのではないか。高架がなくなり、変わっていくであろう景色とリンクすると感じて、このエリアでの撮影を決断。

そして、山田さんご家族や花咲会長などがエキストラで出演したり、松尾さんがカチンコを担当したり、中津の人々との関わりができました。また、中津で愛される喫茶店『珈琲人』もロケ地となり、中津の皆さんと賑やかに撮影する風景の写真を披露して下さいました。

“それぞれの人に、それぞれのストーリーがある。”

地域での映画づくりは、本当にたくさんの人が関わっています。その中には、亡くなった方や失われた景色も。その時の、その状況の「人」や「景色」を残す事が、映像に関わる人間の責務だと、岸本さんは熱く語ります。

岸本さんの作品の根底にあるのは、「家族とのつながり」や「生と死」。男の子を望まれた中で生まれた、女の子の1人っ子の岸本さんは、幼い頃から存在を認めてもらえていない感覚があり、「このまま生きていていいのか」と悩んだ時期も。不登校やひきこもりを経験した、と打ち明けます。

ひきこもりを経て、外に出る事ができた岸本さんは、人は“つながり”の中で生きていく、という事を実感したと言います。映画もまさに、人との“つながり”でつくりだすもの。岸本さんは、その“つながり”というものを伝えていきたい、と考えていて、岸本さんの映画づくりの核となっています。

岸本さんにとって、ひきこもりをしていた学生時代を過ごした地元の貝塚は、大嫌いな場所でした。早く出ていきたい、と感じていましたが映画監督になり、『ある夏の送り火』を地元のシアターでの上映が決まり、色々な人や場所に出会っていくと、いつの間にか大好きなまちに変化した、と言います。

総社市で撮影した『HEAVEN』に関わってくれた地域の方も、最初は「何もないところ」と、自身の地元を卑下する態度でした。しかし、撮影が進み、人とつながり、まちの風景を知っていくうちに、Facebookのアイコンが「LOVE総社」に変わったのだとか。岸本さんは、地域に根ざした映画づくりを通じて、地元の良さに気づき、愛着が湧いてくる感覚をたくさんの人に味わってほしい、と語ります。

現在、西淀川区在住の岸本さんが、西淀川で撮影したのが、『家族の肖像』。20年前に失踪した父親の訃報を受け、生前暮らしていたアパートの片付けに、息子が訪れるところから始まるストーリー。映画と同じように、父親の失踪を経験したと語るのは、『家族の肖像』の応援団長の山本さん。この映画に携わったのは、山本さんの息子さんが、主役の幼少期役を探していた岸本さんの目に止まった事がきっかけ。

山本さんの実体験を、息子さんが映画の中で追体験するという奇跡。山本さんは、こんな映画に関われるのは“運命”だと感じています。何回も『家族の肖像』を観てきた山本さん。心が軽くなる時もあれば、心が沈む時もあり、映画の受け止め方はその時によってまちまちだそう。父親との関係性は、未だ完結はしていない。けれど、ずっと考えさせてくれる。「岸本さんに出会えたおかげ」と、山本さんは語ります。

『家族の肖像』は、「人が亡くなってからでも、関係性を再構築する事ができる」というテーマ。岸本さんも、「女の子でガッカリした」と、自分の存在を認めてくれないお婆さまを恨んでいました。ある時、「自分の気持ちに区切りをつけたい」と、亡くなったお婆さまの遺影に向かい「嫌いだった」と、心の中で伝えた岸本さん。すると、大変な時代を生き抜いてきたお婆さまの気持ちに寄り添う事ができ、理解できるようになったと言います。

その時、自分の中で、「関係性を再構築できた」と、実感したそう。恨む気持ちを持ち続けて、しんどい思いをしている人がいる。亡くなった方との関係性に苦しんでいる人がいる。映画を通じて、そんな方たちが“心の棚卸し”をして前に進むきっかけになれば、と岸本さんは願っています。

今後、岸本さんは淀川がつなぐ淀川3区で映画をつくる予定。南海トラフ地震による津波が押し寄せた時に、区をまたいで避難する計画があるそう。防災の面からも、人々が顔見知りになるような映画づくりをしたい、と考えています。また、地方で撮ってきた映画のつくり方が、人との関係が希薄になっている都会にも通用するのか試したい、という気持ちも。

そして、自分の足元のつながりを大事にして、説得力をもたせたいと考えています。「どんなつながりができるのか」「どんな化学反応が起きるのか」とてもワクワクする、と笑顔で話します。「それぞれの人に、それぞれのストーリーがある。」と語る岸本さん。どんな関わり方であったとしても、関わった人に寄り添い、それぞれの人に敬意を払う岸本さんがつなぐ絆の輪は、ますます広がっていきそうですね!

【岸本 景子】
映画監督
1979 年大阪府出身。西淀川区在住。
ビジュアルアーツ専門学校放送映画学科・摂南大学法学部卒。
家族の喪失と再生や、家族の枠を超えたつながりというテーマを中心に地域に根ざした映画制作をしている。
また、映画を作りたい人の交流サロン「大人の映研部」の立ち上げや、子ども映画ワークショップなどを主催。映画の裾野を広げる活動もしている。
これまでの監督作品に『HEAVEN』(2012)、『ある夏の送り火』(2016) 中津で撮られた『グッド・バイ』(2017)、西淀川区を中心に撮られた『家族の肖像』(2021)等がある。
Facebook
Instagram
YouTube