2024年12月9日のハイパー縁側@中津は澤 宏司さんをゲストにお迎えしました!
テーマは 「身体を使って上手に間違える」

大人も子どもも、高齢者も、足が不自由な方も、全ての人が楽しめる「数楽たいそう」を考案し、様々な場所で実施している澤さん。「数楽たいそう」は、簡単な計算を伴う全身運動で、頭を使う事と身体を使う事が連動するプログラム。自己紹介代わりにと、早速、会場の皆さんそれぞれのスタイルで体験します!

座ったままでも、立ってでもできる「数楽たいそう」。右手=1、左手=2、右足=4、左足=8とし、手や足を広げたり、上げたり下げたりしながら1から15までを数えていきます。また、ステップ運動を伴った別のパターンも紹介。十字の真ん中に立ち、前=1、右=2、左=4、後ろ=8とし、両足・両手を使い、ステップしながら数えていきます。会場は、息切れと笑いで一気に暖まりました。

「数楽たいそう」は、手・足以外にも肩や指など、身体のどの部分を使ってもできます。お手玉などの道具を使って行う事も可能です。さらに、音楽にあわせて動かしたり、向きを変えたり、数字をバラバラにしたり、チーム戦にしたりと、バリエーションは無限大。物足りなくなってきたら16の数を足し、31まで数える事ができる、と澤さんは説明します。

「数楽たいそう」は、年齢で得意・不得意が決まるものでもない点、動かせる部分だけを使ってできるという点でも、澤さんはユニバーサルだと捉えています。そのため、高齢者施設で実施したり、子ども向けのレッスンをしたり、カフェでワークショップを開いたりと、幅広い分野で活躍中です。

運動は脳で制御している事なので、「良い運動選手が、頭が悪いはずがない」と養老孟司さんが語った事に、感銘を受けた澤さん。試験の点数が高いとか、速く計算できるという事と、頭が良いという事が違うのか否かというのを考える時に、「数楽たいそう」がいいきっかけになる、と考えています。

また、心と身体を切り分ける、デカルトの『二元論』に違和感を感じている澤さんは、身体と数学の関係についても、身体と数学をきっぱり分けるのではなく、一括りにした方が新しい考えが浮かぶのでは、と提案します。白か黒かに分けると、真ん中に線を引いてしまう。すると、線の太さがあるので、どっちにもつかないものが出てくる。「数楽たいそう」をしていると、そういう事を考えざるを得なかったと語ります。考える事も動かす事もセットであり、「数楽たいそう」をする事で体感する事ができます。

子どもが「数楽たいそう」に取り組むと、深く考えていない分、澤さんが思い付かないような面白い動きをする事がたくさんあるそう。さらに、計算がまだできないような子も、「7」と言うと、右手=1、左手=2、右足=4を使い、正確に表す事ができ、驚かされるのだとか。

どこかの時点で、人間は数学と身体を分けるようになってしまう。会場から、「分けたがるのは、なぜなのか」という質問があがると、澤さんはデカルトの影響が強いのもひとつ、と答えます。また、きっぱり分けて定型化すると、楽だし効率がいいのだろう、と考えています。

澤さんは、「数楽たいそう」は楽しくないと意味がない、と語ります。体操をする時に、大人は失敗したくないからか、考えすぎてしまう。そこで、澤さんはいかに「急きたてる」かを大切にし、その場のノリを作る事が自分の仕事だ、と言います。深く考えずに、まず動き出す。「いいから、いいから、動いて動いて!」と、声をかけます。

そうすると、思いもよらないような、新しい動きが生み出されます。また、大学で教鞭をとる澤さんは、若い学生たちはとても優秀で真面目だ、と感じています。ただ、慎重すぎる。だから、ここでも「急きたてる」事を意識し、動き出して欲しいと語ります。澤さん自身が考案した「数楽たいそう」も、深く考えていたら恥ずかしくなっちゃってできない、と笑います。

老若男女が楽しめる「数楽たいそう」のきっかけとなったのは、10年ほど前に遡ります。友人のブラジリアン柔術のジムの代表の方たちと、みんなでお酒を飲んでいる時でした。代表の方が、柔術の動きを取り入れた体操「柔術体操」を子どもに教えるという話題に。
それをきいた数学が専門の澤さんは、「じゃ、僕は「すうがくたいそう」やっちゃおうかな〜」と冗談を言い、その場は盛り上がったそう。

それからしばらく「すうがくたいそう」というフレーズが、頭の片隅に残っていた澤さん。小学校3年生の時に、先生から片手で「31」まで数えるやり方を教えてもらい、大好きで繰り返しずっとしていた事を思い出しました。「これを身体でやれば、面白い」と、飲み会から3日後に閃いた、と言います。

「数楽たいそう」が生まれた時は、「何かできたな」くらいの感覚でした。しかし、ジムの代表の方に伝えると、とても面白がってくれ、すぐにクラスをもつ事に。柔術のジムなので、キックやパンチなどを積極的に取り入れました。3年間、柔術ジムでのクラスを担当し、現在行っている体操のメニューのほとんどが、その時に出来上がったと話します。

“がんばらない創造”

「こういうのを作りなさい」と言われ、机の前で考えこんでも、おそらく出てこない。様々な事象があり、自分の中の思いつきで生まれる事を、澤さんは、“がんばらない創造”と表現します。

澤さんは、実は数学が大好きではない、と打ち明けます。数学は便利なツールでしかないのに、良くも悪くも偉そうなのが気に食わない、と言います。たしかに、数学は外国籍の人にも共通していて、コミュニケーションがとれる事や、ピラミッドの作り方を考える事もできる。ただ、偉くもないし不要なものでもないというスタンスでいる澤さんは、数学は“わかった事のまとめ”でしかない。美しい数学世界はない、と言い切ります。

そんな澤さんの考え方を書いた、『数の辞典』という本をこの夏に出版しました。雷鳥社の辞典シリーズの1つなんだそう。円周率や微分・積分など、数にまつわる221もの項目が辞典にまとめられ、ポップなイラストも印象的です。

柔軟性があり、ユニバーサルな「数楽たいそう」。様々なスタイルの体操を紹介して下さり、「数楽たいそう」の魅力を存分に感じる事ができ、「アイスブレイクにもいい」と、会場からの声もあがりました。
今後、澤さんは美術作家の方と数学とのコラボレーションも考えているんだとか。「来た球、全部打つ!」の精神で、これからも勢力的に活動する澤さんのご活躍が楽しみです!

【澤 宏司(さわ こうじ)】
数々企画 代表
博士(理学)。簡単な計算を伴う全身運動プログラム「サワ☆博士の数楽たいそう」主宰。
同志社大学准教授を経て、2024年4月から現職。専門は数理科学、数理論理学。
近年は論理と時間・空間の関係に関するモデルの研究に従事。
著書『数の辞典』(雷鳥社)。好きなゾンビ映画は『ゾンビーワールドへようこそ』。
数楽たいそうHP
数の辞典
サワ博士の数楽たいそう